日々伝えられるニュースや宣伝情報。「あれ?」「どうして?」と、疑問や違和感を覚えることはありませんか? そんなARIA世代のひっかかりについて、違う角度からの意見を識者に聞いて、「なるほど!」をお届けします。今回は、都立病院の独立行政法人化についてのお話です。

 新型コロナウイルスで世界中に激震が走っています。このような状況下で、東京都が2020年3月31日に「新たな病院運営改革ビジョン」を公表。 都立病院・公社病院の地方独立行政法人化を2022年度内をめどに実施する方針が示されました。 コロナ禍で医療崩壊の懸念が高まる中、人間が生きていくために必要な公共インフラが、事実上の民営化で経済効率を優先させる方向に向かうのではないかと不安を覚える人もいるはずです。

 一方世界では、民営化されていた水道事業を25年ぶりに公営化したパリ市など、公共サービスの再公営化の波が広がっています。オランダ・アムステルダムを拠点とするNGO「トランスナショナル研究所」に所属し、世界の公共政策の調査を行っている岸本聡子さんに医療の公営化をはじめ、世界の公営化・民営化の現状について聞きました。

日本の集中治療病床の割合は極端に低い

―― 岸本さんは現在、ベルギー在住とのこと。今回の新型コロナ禍における医療体制について、ヨーロッパの状況、日本の状況をどのように見ていますか。

岸本聡子さん(以下、敬称略) ベルギーでは新型コロナの患者数がようやくピークを過ぎ、2020年5月に入ってから段階的にロックダウンも解除され始めていますが、3月末は感染者数のピークも見えず、ロックダウンも延長されて先の見えない状況でした。病床も医療機材も不足し、イタリア、スペインをはじめとして、ヨーロッパの国々の多くが、医療崩壊の危機にひんしている、まさにその渦中にありました。そんな状況で、東京都が都立・公社病院の独立行政法人化の方針を発表したニュースを聞いて、本当に驚きましたね。あり得ない、と。

 実は日本の病床数は、他の先進国と比べても非常に多いのですが、病床の種類を見てみると、集中治療(ICU)病床の割合は極端に低く、例えばイタリア、スペインなどと比べても少ない。その状態で東京都がさらなる医療の「効率化」を目指すことには懸念を抱いています。

東京都が都立・公社病院の独立行政法人化の方針を発表したのは、ヨーロッパの国々が、医療崩壊の危機にひんしているときだった
東京都が都立・公社病院の独立行政法人化の方針を発表したのは、ヨーロッパの国々が、医療崩壊の危機にひんしているときだった

ヨーロッパで縮小されていた医療の規模

岸本 とはいえ、感染症対策が全く追い付いていないのは日本だけの問題ではありません。公的システムの役割を、経済と効率の論理で縮小していくという動きは世界的に起こっており、中でも医療制度においてはそれが顕著でした。

 例えば、1990年から2013年の間に10万人当たりの病床数はEU加盟国平均で600から400に減っています。公的支出削減、効率化の名の下に医療が縮小されているのです。 現在のような医療崩壊の危機が起こることが予測可能だったにもかかわらず、です。