再公営化の波 実は公営の方が効率がいい?

岸本 私が所属しているトランスナショナル研究所が2017年に行った調査でも、世界33カ国で267例の水道再公営化の事例が確認されています。他の公共サービスを合わせると835事例が確認されています。2020年5月12日には、2019年末までの調査報告を新たに発表しましたが、その時点の公営化・再公営化事例は1408件。この2年の間にさらに600件も新たな事例が報告されています。

 なぜここまで再公営化の波が広がっているのか。命の問題を経済や効率の論理で取り扱うべきではないという話をしてきましたが、実は経済の論理においても、公営の方が「効率」がよいということが各地の例で続々と証明されているのです。公的なサービスは、公的機関が直接運営した方が、民間事業として行うよりもずっと安く行うことができるんですね。「公」とは何かということを改めて考え直せば、それはある意味では当然のことなのです。

本当の「コスト削減」とは?

岸本 例えば、公的機関も民間企業も、インフラなどの設備投資のためには多額の融資が必要になりますが、実は、公的機関がアクセスできる公的資金と、市場融資の資金では、金利は民間の方が断然高いのです。また、公共セクターの利益は直接、事業に再投資されますが、企業はまず利益を株主に還元しなくてはいけない。また企業は内部留保を蓄積はしても、それを吐き出して投資するインセンティブはない。市場で調達された資金(借金)は、割高の利子に企業の利益を上乗せして、私たちの支払う使用料金で返済していくわけです。これが民営化が割高になる最もシンプルな理由です。

 何をもって「コスト削減」というのか、根本から見つめ直すべきだと思います。もちろん、公的機関にもお金はありませんから融資を受けなければなりません。けれども、水や医療など命に関わる分野は社会投資なのですから、どんなに借金をしたとしても、きちんと公共機関が直接投資し、低い金利で長期的に返済していけばいいことです。また、公的事業であれば、何にいくら使ったかを公開する義務があります。本当の意味で効率的な、透明性のあるお金の使い方ができるはずです。