日々伝えられるニュースや宣伝情報。「あれ?」「どうして?」と、疑問や違和感を覚えることはありませんか? そんなARIA世代のひっかかりについて、違う角度からの意見を識者に聞いて、「なるほど!」をお届けします。今回は、法曹界のジェンダーギャップについてのお話です。

 2019年に発表されたジェンダー・ギャップ指数(世界経済フォーラム発表)で日本が過去最低の121位を記録したことを、衝撃をもって受け止めた人は多いはずです。特に経済界では管理職の女性比率の低さ、政界では女性議員比率の低さが指摘されましたが、裁判官、検察官(検事)、弁護士など司法分野のジェンダーギャップはどうなのでしょうか。

 内閣府男女共同参画局の調べによれば、司法分野における女性の割合は、裁判官が21.3%(2016年)、検察官(検事)が23.5%(2017年)、弁護士が18.4%(2017年)。増加傾向にはあるものの、それぞれ全体の4分の1にも満たない状況です。このような法曹界のジェンダーギャップは社会にどのような影響を与えているのでしょうか。弁護士で、国連女子差別撤廃委員会の委員長を務めた林陽子さんに聞きました。

判決にジェンダーギャップは影響する?

―― 実の娘である被害者(19歳)に対して、中学2年の頃から性的虐待行為を繰り返していた父親が、準強制性交等罪で起訴された事件がありました。名古屋地裁岡崎支部で2019年3月に無罪が言い渡され、とても驚きました。もっと女性の声が反映される世の中であれば判決も少し違ったのでは……などと素人は考えてしまうのですが、いかがでしょうか。

林陽子さん(以下、敬称略) その判決が出た2019年3月は、泥酔状態で抵抗できない女性に性行為をした男性が無罪になった福岡地裁久留米支部の判決など、性犯罪に対する無罪判決が4件も続きました。その状況に対して、女性たちがフラワーデモを起こして街頭で抗議し、日本版の「#MeToo」だといわれたほどです。

 さすがに名古屋地裁岡崎支部の判決は、女性だけではなく法曹界の男性からも批判が出ていましたし、控訴審で判決が見直されるべきだという意見も数多く聞かれました。そのような動きも影響してか、2020年3月の名古屋高裁では逆転有罪、父親に懲役10年の判決が下りました。(注:父親は最高裁に上告)

 実は昔からこのように理解に苦しむ判決というものは数多くありました。ですが、かつてはメディアにも女性記者が少なく、しっかりと報道されてこなかった。今では、ジャーナリスト・伊藤詩織さんの告発(※)などもあって、声を上げる女性たちが増え、メディアでも頻繁に報道されるようになってきたことで、変化が起こっているかもしれません。

 現在、最高裁判所の裁判官は15人中2人が女性です。2015年12月に最高裁が夫婦別姓について初めて判断を示しました。そのとき、最高裁には歴代最多の3人の女性裁判官がいましたが、3人はそろって夫婦同姓を法律で強制することは違憲という考え。

 たとえ夫婦が合意の上で夫の姓を選んだのだとしても、そこには「現実の不平等な力関係が作用している」と言い切り、多くの女性たちの共感を得ました。15人の裁判官中、女性3人全員と2人の男性裁判官が違憲説でしたが、最終的に10対5で、夫婦別姓を認めない民法は憲法違反だという判断には至らなかったのです。これを聞いて、皆さんは何を思いますか?

(※2015年4月、伊藤さんは元テレビ局記者の山口敬之さんを加害者として警視庁に準強姦容疑で被害届を提出した。東京地検は不起訴処分にしたため、伊藤さんは検察審査会に不服申し立てを行ったが、検察審査会も2017年9月に不起訴相当と議決。同年、伊藤さんは損害賠償を求める民事訴訟を起こし、2019年12月東京地裁で勝訴。山口さんは東京高裁に控訴中)