日々伝えられるニュースや宣伝情報。「あれ?」「どうして?」と、疑問や違和感を覚えることはありませんか? そんなARIA世代のひっかかりについて、違う角度からの意見を識者に聞いたりして、「なるほど!」をお届けします。今回は、「時間外労働の罰則付き上限規制」のお話です。

 2019年4月に「時間外労働の罰則付き上限規制」が大企業に適用されました。その結果、残業時間は減っているのでしょうか。2020年4月には中小企業も適用開始となりますが、大企業と異なる難しさはあるのでしょうか。ここ5~10年の働き方改革の流れや企業の変革も含め、労働問題の調査やセミナーなどを手がけるリクルートワークス研究所の大久保幸夫所長に解説してもらいます。


働き方改革の歴史をたどってみると…

 2019年4月に残業規制が強化されてから、残業は明らかに減っています。その前、ちょうど法改正について議論され始めた4~5年前から、過労自殺問題などもあり、過労死や働き過ぎなどについて企業は対策を進めてきました。ただその頃はまだ「働き方改革」という考え方が浸透していなかったので、法改正までにとりあえず間に合わせよう、という強引さもあり、「仕事量は減らないのに、残業だけ規制されて、単に残業代規制なんじゃないか」といった従業員からの反発も多く聞かれました。法律が施行された頃から、残業規制することの本質が、理解され始めたような気がします。

 少し遡って見てみましょう。働き方改革の前に「ダイバーシティ経営」が叫ばれ始めたのですが、最初は少子化対策が中心だったんです。働いている女性たちが産前産後休暇の後、育児休業を取り、その後は時短勤務制度をいかに長く使い続けるか……ということに焦点が当てられていました。長く育休や時短勤務を取れることをアピールする企業も多くありました。10年くらい前からです。

 ただ一部の女性の既得権益は膨らんだかもしれないけれど、そこまで長い育休などを取得されることは企業にとってメリットとはならず、会社とママ社員がwin-winの関係ではなくなってしまった。女性のキャリアアップが阻害されることにも多くの人が気づきました。他国ではベビーシッターを使ってでも早く仕事に復帰するのがスタンダード。そのほうが長期的に考えたらちゃんとキャリアを積めて、収入も得られて……とあるべき姿なのではないかと理解され始めたのです。2013年に「(育児休業を3年に伸ばせば)3年間抱っこし放題」とスピーチした安倍首相も、その後はそのような趣旨の発言はしていません。

 少子化対策で育児支援だけをたくさんしても、結果的には(育休から復帰した女性が昇進やキャリアコースから離れることを意味する)マミートラックに陥る女性がたくさんいた、それじゃうまくいかないだろう、ということに気づき、迎えた流れが、働き方改革なんです。「女性活躍を考えると自然と働き方改革を考えざるを得なくなる」と話す経営者もいましたが、女性に真の意味で活躍してもらおうとすると、働き方のルールを変える必要が出てきたわけです。