脳科学や心理学の知見から、人の感情や行動を解き明かしベストセラーも数多い脳科学者の中野信子さん。初の自伝『ペルソナ』(講談社現代新書)では、アカデミズムの男性原理社会での生きづらさや毒親についても語り、話題となっています。中野さん自身の経験も踏まえ、働く女性たちが抱える生きづらさの原因はどこにあるのかを聞きました。
(上)中野信子 容姿の良さが女性の働きづらさを助長する ←今回はココ
(下)団塊の毒親に今も苦悩する40代 感謝しながら縁を切る
美しいと仕事上の実力は目減りして見られる
―― 日経ARIAの読者は、部下を持ち活躍している女性たちも多いのですが、『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書』(行動経済学者の真壁昭夫さんとの共著、白秋社)の中で「女性の管理職は美人だと損」という衝撃のお話があったのですが、なぜなのか教えてください。
中野信子さん(以下、敬称略) 容姿の良しあしが仕事をするうえでプラスに働くかどうかは、残念ながら性差があるのです。
女性の容姿の良さは、例えば秘書などサポーティブな役割のときには、非常に高く評価されますが、リーダーシップを執る管理職などの仕事では「適切ではない」「決断力に欠けるに違いない」など、実力が目減りして見られます。また、実力ではない何かが働いているのではないかと、何らかの不正の手段を想定されやすいのです。
心理学の用語ではステレオタイプ・スレット(固定観念の脅威)というのですが、「この人はこういう外見だからこうに違いない」「女性だから論理的思考が苦手なはず」というふうに思い込んでしまう。無意識のバイアス(偏見)の一つですね。
―― 男性の場合は、見た目がいいと仕事ができるように見られるなど、見た目の良さが高評価につながることが多いと思うのですが。なぜ女性は違うのでしょうか。
中野 たしかに脳機能的には「美しさ=正しさ」というジャッジメントが働きます。それが女性の場合に逆転しやすいのは、行動科学の領域で「女性の正しさ」という社会通念が、必ずしもリーダーシップでないことに行き着きます。
容姿の良さはそれぞれ男性性、女性性をより強く感じさせる効果があります。女性は家にいるのが正しいとか、立場の強いものに従うのが正しいという社会通念がある場合、女性が高い地位についているのは不正である、適切でないと思われやすいという現象が起きてしまうのです。