新型コロナウイルスという未曽有の危機に世界中が揺れる中、医療従事者に向けた迅速かつ大規模な支援活動で注目された特定非営利活動法人ジャパンハート。理事長を務める吉岡春菜さんにジャパンハートの活動やこれまでのキャリアについて聞くインタビュー、今回は(下)です。アウン・サン・スー・チーにかけられた印象的な一言、そして吉岡さんが生きていく上で大切にしている言葉とは?

(上)ジャパンハート吉岡「医療者を守る!コロナ対策に奔走」
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ハードな医療職と家庭との両立は?

―― 春菜さんは15歳と13歳の男の子を育てるワーキングマザーでもあります。出産・育児と国際医療の活動と、どのようにバランスをとってきたのでしょうか?

吉岡春菜さん(以下、敬称略) 結婚してミャンマーに渡ったのが2004年。その翌年に長男が生まれ、子育てのために私と子どもだけ日本に帰りました。医療の仕事はずっと続けていたかったので、小児科医として病院勤務をすることに。2年後に次男も生まれ、育休はそれぞれ半年ずつ取って職場復帰しました。

 小児科医のいいところは、「子どもが小さいうちは、健診と予防接種の外来だけに絞って働こう」などと、ライフステージに応じて仕事量を調整しやすいこと。現場感覚を絶やさないために、細くてもいいから長く、(一人の)医者として働くことが大事だと考えてきました。理事長職に就いてからも、空いている時間に健診や産業医としての仕事を入れています。やっぱり、現場で仕事をしていないと、新しい薬の知識にも追いつけなくなっちゃうので。

吉岡春菜 ジャパンハート理事長(小児科医)
吉岡春菜 ジャパンハート理事長(小児科医)
1979年、大阪府生まれ。2003年に川崎医科大学を卒業後、吉岡秀人医師(現・ジャパンハート最高顧問)と結婚。04年にジャパンハートの国際医師長期ボランティアに参加。帰国後、岡山県で勤務医をしながらジャパンハートの医療活動に定期的に関わる。11年、東日本大震災の医療支援をきっかけにジャパンハートに入職。17年から現職

―― 女性の医療者のキャリアとライフの両立は、社会課題でもありますね。

吉岡 確かにそうですね。医師と育児の両立は難しく、夫は日本と海外を行ったり来たり。私の場合、幸いにして夫の母が一緒に住んで、子育てを全面サポートしてくれました。関西人同士で気が合って、お互いに嫌なことは嫌とハッキリ言える間柄だから、とても頼らせてもらいました。職場のほうも理解があって、「自分の子どもを育てるのも、小児科医として大事な経験だから」と早く帰宅させてくれたり、当直なしの勤務を許可してもらったり、本当にありがたかったです。

アウン・サン・スー・チーにかけられた言葉

吉岡 私はたまたま周りの人に恵まれたのですが、日本の医療界におけるワーキングマザーの現実はまだまだ過酷ですよね。世の中の流れと比較して遅れた世界だと思います。

 数年前のことですが、夫(前・理事長で医師の吉岡秀人さん)の代理としてアウン・サン・スー・チーさん(ミャンマーの国家顧問)に面会する機会をいただいた際、スー・チーさんが「今のミャンマーが日本より優れていることがあるとすれば、政治のリーダーに女性が多いこと。日本ももっと女性という資源を生かしたらどうか」とおっしゃったことが印象に残っています。

―― ご自身も3年前からジャパンハートの理事長に。組織のリーダーを引き受けるに至った経緯は?