企業の取材をしていて度々耳にするのは「工学系の女性人材がいない」という言葉。大学の工学部学生の女性比率は十数%程度、しかもそこから3割はエンジニアではなく事務職に就職するというからしかたがない。そんな諦めムードを一変させたのが2022年4月、奈良女子大学が女子大で初となる工学部を創設したというニュースだ。工学部初代学部長である藤田盟児教授に、その経緯と熱い思いを聞いた。

編集部(以下、略) 女子大学初の工学部は、どのような経緯で設立されたのですか。

藤田盟児さん(以下、藤田) 女性の活躍の場を広げることを使命としてスタートしました。歴史的に見ても、工学部に女性が入れるようになったのは戦後です。進駐軍が「共学にすべし」としてからの話で、それまで女性は大学教育もまともに受けられなかった。それがいまだに尾を引いている。

 奈良女子大学では以前から「いつか工学部をつくろう」という意志はあったんです。直接のきっかけは奈良教育大学と法人統合したことです。工学博士も多く在籍していたため実現の可能性が見えてきて、どんな工学部がつくれるか2018年から検討し始めました。

 米国でも工学部学生の女性比率は18%。女性が少ないのは世界的な傾向です。ところがマサチューセッツ州のオーリン工科大学という従来の工学部への批判から生まれた大学や、カリフォルニア州のリベラルアーツ系の名門校クレアモントカレッジーズの1つ、ハーベイ・マッド大学(工科大学)は男女比が1対1。

 調べたら、オーリン工科大学は「工学は人から始まり人で終わる」がモットーだという。ハーベイ・マッド大学は「人と離れた技術は技術が無いより悪い」という。どちらも人と社会をベースに工学を教育しているという共通点がありました。もしかして工学が女性に顧みられない原因は、今の工学のあり方にあるのではないか。人や社会を基本に考えると工学を学びたくなる女子学生が増えるのではないかと考えたわけです。

男性の思考でつくられた社会に行き詰まりが

―― なぜ今の工学分野ではそうなっていないのでしょうか。

藤田 今の工学の原点はワットの蒸気機関の発明です。大きな力を出したり、車や飛行機のようなスピードを出したり、人間の肉体的な能力を拡張してきたのが20世紀までの工学。これによって人類は過酷な労働から解き放たれて豊かな文明を手に入れましたが、肉体的な能力の拡張ばかりやってきた。男性的な発想です。「筋肉は裏切らない」的な。

 人間には筋肉ばかりでなく脳があって、20世紀の終わりにコンピューター技術やAI(人工知能)が発達し、工学でも中心的な技術になっています。

 知能をつくる際に、男性だけでつくるといろんな問題が起こります。知性は男女ともに平等に関わらないと、人間の判断基準を網羅できない。これはどの分野にもいえることで、それでダイバーシティがいわれ始めたのだと思います。

―― なるほど! ものすごく納得がいきます。