「子どもに幸せな人生をつかんでもらう」ことを目標に掲げる認定NPO法人「キッズドア」。経済的に困窮する子どもの学習支援をする中で、対象を小学生から高校生世代にまで広げていきました。22年春には国立大学医学部の合格者も誕生。夢を実現するために、具体的な結果を出す活動をどのように深めていったのか。理事長の渡辺由美子さんに聞きます。

(上)困窮家庭の子どもに教育の機会を 1人でNPO立ち上げ
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教えるプロより学生ボランティアが必要な理由

編集部(以下略) 2010年から高校受験の支援を始めたわけですね。教えるプロではなく大学生のボランティアが子どもたちの成績を上げて合格に導くというのは難しくなかったですか?

渡辺由美子さん(以下、渡辺) 私たちの学習支援では、難しい数学を教えることより、一緒に勉強をしてあげることを大事にしています。子どもの学力は残念ながら親の経済力に比例します。無料学習会に参加する子どもたちの多くは学力が低い傾向にあります。彼らは塾に行けないだけでなく、家に勉強する場所もないし、テスト前に勉強する習慣もない。だから0点だった子も、ちょっとテスト勉強をすると、すぐ30点ぐらいに上がります。

認定NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子さん
認定NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子さん
2007年に任意団体キッズドアを立ち上げ、21年には認定NPO法人化。現在は子どもの学習支援のほか、食料や生活を支援する「ファミリーサポート」や他団体へのノウハウ研修なども実施

渡辺 まず勉強のやり方を教えること。そして、継続して学習会に参加してもらうために、時には雑談をしながら、生徒に寄り添うようにしています。続けていけば、自分で勉強する習慣がついていく。それが私たちの学習支援です。だから教えるプロより学生ボランティアのほうがいい。大学生が「一緒に勉強しよう」と正面から向き合って励ましていくと、それに応えようと生徒もだんだん頑張るようになっていきます。

高校受験に無事合格、その後に感じた残念な思い

―― 高校受験だけでなく、大学受験もサポートするようになったのはどうしてですか?

渡辺 義務教育ではないから最初は高校受験までかなと考えていたのですが。いろいろ残念な出来事もあって……。せっかく高校に受かっても、みんなアルバイトをしなくてはいけないので勉強する時間がないんですね。受講生たちのその後が気になって1年後、同窓会を呼びかけたら、心配していた女子生徒から電話があって、高校を辞めて出産した、と。そうなると、また余裕がない暮らしになり、連鎖から抜け出せないわけです。