子育て中の主婦だった渡辺由美子さんは43歳のとき、「日本の子育てはお金がかかる」と気づき、たった1人で任意団体を立ち上げ、子どもへの支援活動を始めました。15年たった今、渡辺さんが理事長を務める認定NPO法人「キッズドア」は100人近い職員、約900人のボランティアが関わる全国組織に成長。キッズドアが学習を支援する子どもは、小学生から高校生まで約1900人にもなります。多くの共感を呼び、人や組織を動かしてきた渡辺さんの活動の原点を聞きます。
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イギリスでは入学準備に必要なものがない
編集部(以下、略) 「子どもの貧困」問題は広く知られるようになりましたが、渡辺さんが最初にキッズドアの活動を始めようと考えたのは何がきっかけでしたか?
渡辺由美子さん(以下、渡辺) 自分の子どもが小学校のとき、近所には経済的に余裕がなく子どもを遊びに連れて行けない家庭がありました。休みの日も親は仕事に出ていて、子どもだけで家にいる。だから、その子を家に呼んで、一緒に遊ばせたり、ご飯を食べさせたり、自分にできることをしていたのが始まりです。
―― 英国で暮らした経験も気づきにつながったそうですね。
渡辺 夫の仕事の関係で英国に1年間暮らしたことも、子どもの教育を考えるきっかけになりました。当時、英国は労働党のブレア政権だったこともあり、教育に予算が割かれ、社会全体で子育てをしていくような環境がありました。私が小さな子どもを連れて街を歩いていても困ることがない。例えばガタガタ道でベビーカーを押していていると、知らない誰かがサッと手助けしてくれます。
英国で長男が小学校に入学する時、何を持たせればいいか先生に聞くと、「nothing(何もいらない)」と。英語なので聞き間違いかと思ったくらいです(笑)。鉛筆も消しゴムも寄付でそろえ、空き缶に入れて共有して使うわけです。学校からは1年間、一度も集金がありません。子育てにかかる費用は社会が平等に負担し、保護者に過度に負担をかけない仕組みがありました。
日本では公立の学校でもランドセルや文房具を買いそろえなくてはいけないし、給食費やドリル代、旅行の積立金などが集められます。年に数回しか使わない算数セットなど、誰かが使ったものを寄付すれば買わずに使えますよね。毎年、保護者がすべて買いそろえなくてはいけないなんておかしい、それは英国に行って初めて気づきました。
―― 日本に帰って来てから、どんな課題を感じましたか?