全編英語のマレーシア映画でミステリアスな日本人役に挑戦

―― 7月公開の映画『夕霧花園』も、マレーシアの制作で監督は台湾出身、セリフは全編英語という新しい挑戦でしたね。

阿部 全編英語の作品は過去にも出演したことがありますし、英語はこの作品に向けて勉強していきました。日本語で話すのとニュアンスも違いますが、逆に英語のほうがやりやすかったりもします。日本語だとちょっと恥ずかしいなと思うセリフでも、英語だと言いやすい。(ミステリアスな役なので)英語のほうがやりやすかったかもしれない。

―― 第2次世界大戦後のマレーシアで暮らす日本人庭師という、これまでにはないような役柄です。

阿部 非常にミステリアスな役でしたよね。戦時中、決して人に言えないような軍事的な秘密を抱えながら、誰にも言わずに背負って生きていた。そして「庭師」という日本の精神性を表現する役でもある。いろいろなものを背負った役柄でしたね。時代劇では日本の精神性を描くものもありますが、今回は日本の映画以上に当時の日本人を描こうとした唯一無二の作品じゃないかな。主人公は当時の日本の文化とか美学を象徴するような存在でした

 日本のことは現場では僕が一番知っているという立ち位置でしたから、自分が発言していかなくてはいけないなとも思いました。庭師や彫師について勉強したり、茶道も学んだりしましたが、立ち居振る舞いなど現場で役に立ったこともありました。

監督からのラブコールで出演を決定

―― 出演のきっかけは監督からの手紙だったそうですね。

阿部 ぜひ出演してほしいという依頼を受けました。それはうれしいじゃないですか。監督から情熱を感じていました。第2次世界大戦中の話なので難しい役柄だなというのと、当時の日本人がステレオタイプに描かれると日本での公開が難しくなるかもしれないとは思いました。

7月24日から公開されるマレーシア映画『夕霧花園』。台湾恋愛映画の名手、トム・リンが監督を務め、マレーシア人女優、リー・シンジエと共演
7月24日から公開されるマレーシア映画『夕霧花園』。台湾恋愛映画の名手、トム・リンが監督を務め、マレーシア人女優、リー・シンジエと共演

―― スタッフもほぼ外国人、ロケ地もマレーシアでしたが、現場で大変なことはありましたか?

阿部 映画をつくることに関しては世界共通なんだなと思います。映画人特有の見えない言語があって、すべてが通じてしまうんだなと思いました。監督を中心に現場は動いていて、それぞれがプロとして仕事を進めていく。非常にプロ意識の高い現場でした。僕はそういう現場が合うのかもしれませんが、すごくやりやすさを感じた。今回は9カ国ぐらいのスタッフ、キャストが集まりましたが、みんな向かっていく先は同じだったし、力を合わせて和気あいあいとやっていく感覚があって、非常にいい現場でした。これからもお話をいただければ、海外の作品もやっていきたいですね。

取材・文/竹下順子(日経xwomanARIA) 写真/吉澤健太