75歳以上は自らの生死を選択できる――。もし、高齢者が国の支援制度によって「安らかな死」を選べるとしたら、当事者や社会はどう受け止めるのか。究極の問いを投げかける衝撃の映画『PLAN 75』が、2022年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、新人監督に贈られるカメラドールの特別表彰を受けました。監督・脚本を務めたのは早川千絵さん。なぜこの映画を作ろうと思ったのか、製作のきっかけや思いについて聞きました。

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(下)早川千絵 育児、会社勤め…回り道して40代で映画監督

「社会が不寛容になっていく…」抱いた危機感

編集部(以下、略) 少子高齢化が加速する中、国が75歳以上の高齢者に生死の選択権を与える「プラン75」という制度を施行した――。映画の中での架空の制度ですが、この先ないとも言いきれない絶妙なリアリティーを感じ、胸に迫るものがありました。映画『PLAN 75』を製作しようと思ったきっかけとは何でしょう。

早川千絵さん(以下、早川) ここ十数年の間に、日本で「自己責任」という言葉がよく聞かれるようになりました。「人に迷惑をかけてはいけない」「何か困ったことがあっても自分で何とかしなくてはならない」と考える人が増え、例えば、生活保護受給者へのバッシングが度々起きるなど、社会がどんどん不寛容になってきていると感じていました。

 そんな中、2016年に起きたのが相模原市の障害者施設での殺傷事件。人の命を生産性ではかり、役に立たない人間は価値がないとする考え方が広がりつつあるのではないかと、危機感を覚えました。この事件はある一人の特殊な犯人によるものというより、今の社会に起こるべくして起こった事件だと感じましたね。

 このまま不寛容な世の中が続いていけば、「プラン75」のような制度が日本に生まれてもおかしくない……。私たちは誰もが年を取り、誰もがいずれ高齢者になります。どんな世代にも「自分事」として考えてもらえるテーマだと思い、この映画を作りました。

早川千絵(はやかわ・ちえ)
早川千絵(はやかわ・ちえ)
1976年生まれ。ニューヨークの美術大学School of Visual Artsで写真を専攻し、独学で映像作品を製作。短編『ナイアガラ』が2014年カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門入選。22年『PLAN 75』の監督・脚本を手がけ長編映画デビュー。同作はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、新人監督に贈られるカメラドールの特別表彰を受けた

―― 『PLAN 75』は、是枝裕和監督が総合監修したオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018年)の一編として過去に公開されているんですよね。

早川 そうなんです。長編にするにあたり、登場人物やストーリーの展開を変えたのですが、一番苦労したのは脚本づくりです。完成までに4年もかかってしまいました。

 是枝監督から「脚本ができたら読むよ」と言っていただいたのですが、監督は別の作品に取りかかっていてお忙しいだろうなと。脚本に向き合いながら、「どうしたらいい作品になるだろう」と、産みの苦しみにもがいていました。

―― 「プラン75」の制度は75歳から申請できるという設定になっていますが、75歳にしたのはなぜでしょう。