即興で変化させていくのが自分流

山下 確かに変化は感じますね。最初の1年目は「社長って、こんなにも幅広く見なければいけないのか!」と、見る範囲の広さにまず驚いて。お金、人、マーケティング……すべての経営責任者になるので、その局面、局面で判断が必要だし、目の前に問題が立ちはだかればそこに先頭切って踏み込んでいかないといけません。とにかく1年目はがむしゃらでしたし、分からないからこそ理想論ばかり語ってしまったところがありました。

 そうやって前に突き進みながら、2年目、3年目を迎えると、だんだん自分に合った経営スタイルが分かってくるようになって。「ゴール逆算型」で進めるトップの方も多いと思いますが、私はそのとき、そのときで即興で変化させながら、ベストパフォーマンスを出していくタイプの人間だとだんだん分かってきました。だから数日前に言っていたことと、きょう言うことが違ってもそれをよしとする。以前は一度宣言したら、撤回してはいけないと思っていて、がんじがらめになった時期もあったので、そうやって自分を型にはめるのはやめて、即興スタイルを受け入れるようにしています。

 それにもう一つ変わってきたのは、以前よりも組織の力を信じられるようになったことです。最初の1年目のときは「私にしかこのブランドはつくれないし、私がどんどん方針を示していかないと進んでいかない」という、おごりが多少なりともありました。

 でも、ここ数年でどんどん人が育ってきて、新たにいい人たちも集まってきていて。私がコントロールしなくても、成果を生み出せる仕組みと組織が出来上がってきたんですよね。皆がこのブランドをつくってくれているんだ、成長させてくれているんだと、組織の力を信じられるようになったことは大きな変化です。これを私は「ブランドの民主化」と勝手に呼んでいるんですけどね(笑)。

―― なるほど。最後になりますが、「社長としてこうありたい」という山下さんなりの信念について聞かせてください。

山下 会社というものを一つの船のように捉えると、私はこの船に多くの人の人生を乗せている感覚があるんです。それは、その人だけではなく、その人の家族の人生までも。彼らが長い社会人生活の中で、一時でもディセンシアという船に乗ってくれたならば、そこでいい経験を積んでもらいたいし、ハッピーに過ごしてもらいたいと思っているんですね。

 やがて彼らが船を下りて、10年、20年後、ディセンシアにいた頃のことを振り返ってみたときに、「すごく意味があるものだった」と思ってもらいたい。もし、社長である私がこの船を誤った方向に進ませてしまったら……例えば不祥事を起こしたり、世の中に何か悪い影響を与えたりしたら、かつてこの船に乗っていた彼らの人生も不幸にしてしまいます。

 だからこそ、私自身がいい方向に舵(かじ)取りをして、「私、あのときディセンシアにいたんだよ」と誇りに思えるぐらいの会社にしていきたい。そんな風に思えるようになったのは、社長という経験をさせてもらってからです。

「10年、20年後、社員がディセンシアにいた頃のことを振り返ってみた時に、『すごく意味があるものだった』と思ってもらいたい」
「10年、20年後、社員がディセンシアにいた頃のことを振り返ってみた時に、『すごく意味があるものだった』と思ってもらいたい」

取材・文/伯耆原良子 写真/吉澤咲子