私は社長に向いてない。ずっとそう思っていた

山下 「これからもずっと現場にいたい」という思いがあったのと、一番は「自分は社長に向いていない」という思い込みからです。というのも私自身、「このブランドをどうしたらお客様にもっと好きになってもらえるか? 知ってもらえるか?」といったモノやコトには興味がある一方で、人や組織にはまったく興味がなかったんですね。たとえば、組織をどう動かしていくかという組織運営であったり、社内調整や人間関係の構築であったり。こうした部分に苦手意識があったことが大きな理由でした。

 ただ、人に興味がないとはいえ、社員と話すのは大好きなんです。皆がどんなふうに仕事をしているのか? どういう状態なのか? コンディションなども気になります。おそらく上下関係なくフラットに人付き合いをするのは好きだけれども、組織における人付き合いや人事まわりのことに疎いと言いますか。

 社長として必要な要素が欠けていることに悩んだときもありましたが、「ブランドやマーケットなどモノコトに興味関心が集中しているリーダーは珍しいから、その強みはなくさずに突き進んだほうがいい。自分が弱いところは、ほかの『できる人』に頼めばいいのだから」と周囲から助言をもらって……。「なるほど!」とその言葉が腑(ふ)に落ち、肩の力が抜けましたね。

―― 「社長としてやっていこう」と、決心がついたということでしょうか?

山下 そうですね。最終的に社長を引き受けようと覚悟できたのは、「こんなチャンスをもらえることってなかなかないだろう」と心から思えたからです。私はプロパーではないですし、派遣からスタートして今に至ります。この会社はプロパーだけを重視しているわけでもなく、どういう経歴の人であれ、「できる人、やりたい人にチャンスを与える」という風土があるんだと、身をもって感じられましたので。そういう会社って出合いたくても出合えるものでもないから、このチャンスを大切にしなければと思いましたね。

 それに私のようなキャリアを持つ人間が成果を出していけば、それは一つの前例になり、同じような境遇の人に“道筋”を示すことができるかもしれない。そうした思いも原動力になりました。