40代以降が活躍するのが脚本家、今から目指せる

 銀行員の傍ら「企画の達人」として仕事の幅が広がっていた30歳のころ、香西さんは、脚本家への憧れを淡く胸に抱くようになっていた。

 「小説は大学生が芥川賞を取れる分野です。1人称で語っていいものですから。でも脚本はいろんな人の立場に立って書かないといけないもの。かつて向田邦子賞を受賞したドラマ『29歳のクリスマス』を当時57歳の鎌田敏夫さんが書いていたことに衝撃を受けたんです。脚本家って40代以降の方が活躍する分野なんですよね。橋田壽賀子さんも長く第一線で活躍されましたし。だからまだ目指すことができると思ったんです」

 ちょうどそのころ地元で行われたさぬき映画祭で、『極道の妻たち』シリーズで知られる映画監督 中島貞夫氏が脚本のワークショップを開くという話を聞きつけた。香西さんは、これを好機ととらえてワークショップに参加し、脚本の基礎を学んだという。

 「中島監督に『プロくらいうまく書けているよ』とほめていただいて、それがすごくうれしくて、頑張ろうという気持ちが湧いてきました。脚本は映画の設計図。いい脚本を書くためにたくさん映画を見ましたし、自分でも撮影してみようと考えるようになりました。その映像をまた中島監督に見ていただいて、ほめてもらって、また撮って。そういった関係が、ありがたいことに今でも続いているんです」

 せっかく撮った映像だからと、知人のツテがあった米子の映画祭やゆうばり国際ファンタスティック映画祭などにも出品してみたところ、少しずつ映像制作の依頼が来るようになったという。

 「最初は香川県警の犯罪防止ドラマから始まりました。そのなかの万引き防止の映像は警視庁長官賞をいただいたらしく、そこからPR映像やミュージックビデオなどの制作依頼が次々に来るようになりました」

 これを足がかりにショートムービーにとどまらず、長編映画を撮るようにもなっていく。ただ勤め先の銀行は「副業禁止」。それならばと報酬をもらわずに両輪を回していこうと考えた。篠原ともえ主演の『猫と電車―ねことでんしゃ―』は、有給休暇を使って3日間で撮り切ったという。