昭和女子大学理事長・総長であり、社会変革推進財団(SIIF)理事長でもある坂東眞理子さん。元官僚としても、さまざまな女性施策に携わってきました。男性社会で道を切り拓いてきたキャリアの先駆者としてARIA読者の大先輩でもある坂東さんに、今の日本を取り巻く社会的課題や、これからの女性の働き方について聞きました。

(上)ジェンダー・ギャップ指数が示す日本の遅さ ←今回はココ
(下)21世紀型組織は「フェイルファスト」であれ

世界の変化に追いつけない「適温社会」の日本

―― 2019年は坂東さんが理事長を務める社会変革推進財団(SIIF)も組織を再編して新しいスタートを切りましたね。昨年を振り返って特に印象的だったのはどんなことですか?

坂東眞理子さん(以下、敬称略) 2019年はSDGsへの認知度が高まり、環境問題や格差社会、貧困などの課題にも関心が高まった年でした。

 私にとって印象深かったのは昨年11月、中国・深せんへの訪問です。40年前、経済特区に指定される以前の深せんは人口3000人程度の貧しい漁村でした。今は1300万人が住む大都市です。見事に整備された街路に高層ビルが立ち並び、中国に多くみられる古い街並みはどこにもありません。ビジネスマンが闊歩(かっぽ)し、高齢者の姿を見ない人工的な街。コントロールされた社会では、政府が「ガソリン車をやめる」と言えばすぐその方向に整備される。公道で自動運転の実験も始まっていました。

 この中国の変化の速さに対して日本の遅さ。日本国内にいると、それなりに安定して治安もよく食べ物もおいしい。いろいろな意味で「適温社会」ですが、気が付いたら世界が大きく変わっているのに、日本はあまり変わっていません。それぞれプラス面とマイナス面がありますが、深せんの街を見ながら日本とのスピード感の違いを肌で感じました。自分たちでは変わっている、変えているつもりでも、そのスピードに世界とは差があるのです。

「日本も変わったと思っていても、世界の変化とはスピード感が違う」(坂東さん)
「日本も変わったと思っていても、世界の変化とはスピード感が違う」(坂東さん)

―― 確かに日本は「適温社会」で、中にいると気付けないことも多いですね。世界の変化に追いついていないと感じることはほかにもありますか?

坂東 その実感をさらに強くしたのが19年12月に発表された世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)による「ジェンダー・ギャップ指数」でした。日本は153カ国中121位という結果。前回の110位から、またガクンと下がってしまいました。