演劇界のトップを走り続ける渡辺えりさん。公演中止など演劇活動に大きな影響があった2020年もその歩みを止めることはなく、舞台を守るための活動に東奔西走。例年以上に精力的に駆け抜けたといいます。2021年2月には『喜劇 お染与太郎珍道中』で主役のお染を演じる渡辺さんが新型コロナ禍で考えたこと、そしていま喜劇を演じる意味について語ります。

(上)コロナ禍でも演劇の灯は絶対に消さない覚悟で
(下)弱者が生きやすい社会をつくるのも演劇の役割 ←今回はココ

戦争を止められなかった悔しさを戯曲に

 新型コロナ禍で甚大な被害を受けた文化芸術を守る運動「#We Need Culture」に深くかかわり、小劇場やミニシアター、ライブハウスなどの運営維持のため、国に「文化芸術復興基金」の創立を働きかけている女優の渡辺えりさん。演出家、劇作家としてもさまざまな仕事をこなしながら、精力的に活動する熱量には脱帽の一言だ。

 社会に訴えかける活動を渡辺さんが行うのは今回が初めてではない。1991年の湾岸戦争のときは、戦争を止められなかった悔しさや落胆を『クレヨンの島』という戯曲にまとめ、演劇を通じて戦争反対を訴えた。2003年のイラク戦争のときには、アメリカ政府や日本政府にイラクへの爆撃を中止する嘆願書をファクスで送った。

 「せめて、現地の子どもだけは逃がしてほしくて、子どもたちの預入先として自宅をはじめ友人宅など、100人ぐらい預けられる先を確保しました。そのことを外務省に伝えましたが、戦地に飛行機を飛ばすことはできないと言われ、実現できませんでした」

「私の原点にあるのは、『死ぬのが怖い』という思い。演劇をはじめ、芸術というのは死に向かう時間を止めて、永遠のものとしてとどめようとするものだと思っています」
「私の原点にあるのは、『死ぬのが怖い』という思い。演劇をはじめ、芸術というのは死に向かう時間を止めて、永遠のものとしてとどめようとするものだと思っています」

 東日本大震災が起きたときには、すぐに単身福島へ。実情を伝えるため、現地の人にカメラで撮ってもらい、民放で流してもらおうと試みたが、実現しなかったという。「早く助けなきゃ」という思いから起こした行動だった。

 「なんの罪もない人が被害に遭うのを、手をこまねいて見ていられます? できませんよね。だから私は行動するんです。『弱者が生きやすい社会をつくる』というのも、演劇が担う大切な役割だと思うので。そうでなければ、演劇は必要ない、と言っても過言ではありません。やる気も気力もそがれることが多い現実を、なんとか生き抜く力をもらいたくて見るのが演劇で、特に、その力は喜劇にあると思っています」