演劇界のトップを走り続ける渡辺えりさん。公演中止など演劇活動に大きな影響があった2020年もその歩みを止めることはなく、舞台を守るための活動に東奔西走。例年以上に精力的に駆け抜けたといいます。2021年2月には『喜劇 お染与太郎珍道中』で主役のお染を演じる渡辺さんが新型コロナ禍で考えたこと、そしていま喜劇を演じる意味について語ります。

(上)コロナ禍でも演劇の灯は絶対に消さない覚悟で ←今回はココ
(下)弱者が生きやすい社会をつくるのも演劇の役割

これまでの役者人生にないくらい稽古に励んだ

 「舞台の幕を開けること」が困難になり、演劇界も深刻な影響を受けた2020年。だが、渡辺さんは創作活動を休むことがなかったという。8月に上演予定だった作品は出演者が40人、かつその多くが高齢者ということから公演が見送られたものの、「コロナ禍でも、演劇の灯を絶やしちゃいけない!」という一心で、公演のあり方を模索した。その結果、例年以上に精力的に走り回り、8月には3本の新作の作・演出を手掛け、うち2本に出演した。

 「劇場さんも『ぜひ何かをやってほしい』と言ってくれたので、密を避け、稽古期間が短く、舞台装置なども簡素で済むやり方はなんだろう、と考えに考え抜いて。二人芝居とリーディング公演(俳優が台本を手にして演劇をする公演)の計3本が出来上がりました」と渡辺さん。稽古は、3作品同時にスタート。それだけでもかなりハードだが、9月には別の作品への出演が控えていたため、なんと4作品の稽古を同時進行することに。「長い役者人生で、朝の9時から夜11時半まで稽古をするという初めての経験をしました」という。

「2020年にあれほど創作活動や稽古ができたのは、『やらなくちゃいけない!』という思いに突き動かされたから。その思いに尽きます」
「2020年にあれほど創作活動や稽古ができたのは、『やらなくちゃいけない!』という思いに突き動かされたから。その思いに尽きます」

 「あのときは週刊誌に撮られたほど、げっそり痩せたんですよ。もうすっかり元に戻っちゃいましたけど(笑)。それほど死ぬ気でやったら、65歳でも舞台を4本掛け持ちできちゃったんですよね。周囲の人たちは体調を心配してくれて、『一度できたからって、二度と同じことをしないでね』とくぎを刺されましたが、火事場ならぬ、コロナ禍のバカ力だったんでしょう。公演を見送ることになったからといって、劇場に穴を開けるのは心苦しくて、なんとしてでも、やらなくちゃいけない! と。私は演劇によって生かされてきたので、ここで何もしないのは悔いが残ると思ったんです