人生を変えた「犬のお母さん役」

 私は演劇によって生かされてきた――。この記憶の始まりにあるのは、小学2年生のときの学芸会だ。小学校に入学して間もなく、渡辺さんは背が高くて体格がよかったことからいじめを受け、不登校状態に陥ってしまった。そこから立ち直るきっかけになったのが、犬のお母さんの役を演じた学芸会だった。「舞台に立つと、いじめられっ子の自分を忘れることができました。もともと、私は人に喜んでもらうのが好きな性格で、芝居をすると、こんなにもたくさんの人が喜んでくれるのか!と世界が開ける思いがしました

 その後、作文や歌で褒められる機会が増えて自信をつけ、学校生活に溶け込めるように。5年生のときは、「6年生を送る会」で人生で初めて脚本を書き、演出と主演を務めた芝居が大好評だった。どんどん演劇にのめり込み、高校では演劇部に所属して16歳のときには女優になろうと決意していた。

「自分がなぜ山形から東京に出てきて芝居を始めたのか。原点に立ち返り、いろいろなことをコロナ禍に考えました」
「自分がなぜ山形から東京に出てきて芝居を始めたのか。原点に立ち返り、いろいろなことをコロナ禍に考えました」

 それからおよそ50年。培ってきたのは女優、演出家、劇作家としての才能や能力だけではない。演劇仲間との友情も育んできた。それこそが、コロナ禍での公演を実現する頼みの綱になったという。

 「コロナ禍で公演できるカタチを見つけても、出演してくれる人がいなければ舞台は成立しませんよね。その不安を抱えながらお願いすると、女優の木野花さんや歌舞伎俳優の尾上松也くんなど、みんな『やるよ!』と快諾してくれたんです。あのときほど、持つべきものは友で、友情によって結ばれた絆の強さを痛感したことはありません