「フライングタイガーコペンハーゲン」を運営するZebra Japan。2019年夏に代表取締役社長になったのが松山恭子さんです。新卒で入社した外資系証券会社を退職し、国内でMBA(経営学修士)を取って転職。その後、外資系や国内企業を渡り歩きキャリアアップしてきました。事業立ち上げの失敗や想定外の出来事を乗り越えた経験も数々。上編は学び直しと、異分野へ転職をした経験を聞きました。

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「経営者だったら」という訓練ができたMBA受講の日々

松山恭子さん(以下、敬称略) 大学を卒業して外資系証券会社に入り、証券アナリストになりました。上場会社の業績をIR担当役員などに取材し、「この企業の株価は先の業績を踏まえるともっと伸びるんじゃないか」「評価以上の株価になっているのではないか」などと分析して、投資家へ提案するのが主な仕事。その過程で会社のことを深く知れば知るほど、業績などの数字以外のところで、例えば組織がうまくいったりうまくいかなかったりする理由が見えてくることに気付きました。そのうちに数字そのものよりも、事業や組織運営に興味が出てきて、自分も小売業などの事業会社で働きたいと思うようになりました。

―― すぐに転職するのではなく、いったん会社を辞めてMBAを取るという選択をしました。海外の大学ではなく国内の大学を選んだ理由は何でしょうか。

松山 米国に留学することも検討したのですが、結婚したばかりだったということもあり、国内の大学も視野に入れて調べました。慶応大学がハーバード・ビジネス・スクールのケースメソッドを使っていることが分かり、実績もあったので、最終的にそこに通うことに決めました。通信教育がメインのところも出始めていたのですが、一緒に学ぶ仲間とのつながりも大切にしたいと思いました。

 MBAの学びは専門性を磨くというより、もし自分が経営者だったらどういう判断を下していくのかをさまざまなケーススタディと共に学んでいきます。私が証券アナリストとして取材してきたのは上場会社でしたが、授業では中小企業だったり海外の会社だったり、さまざまなケーススタディを学んでいきました。そして毎回「あなただったら経営者としてどうしますか?」と最後に問われます。

 興味深かったのは、経営学の理論は学ぶけれど、最終的に理論だけで解決できるようなケーススタディはほとんどなくて、最後は人に絡むところにつながっていく。まず7~8人ぐらいの小さなグループでディスカッションし、例えば「この問題のネックはここなのでは?」という問題の抽出から解決案までの仮の結論を出したら、次は教授も含めた50~60人のグループで話し合います。そのときも「もし自分がその会社の社員だったら?」「経営者だったら?」と置き換えて考えます。経営者の視点に立って考える訓練ができたことは、本当にMBAを学びに行ってよかったと思うことの一つです。

 もともと私は理論派というより感覚派だという自覚があったのですが、ケーススタディで2つの選択肢があったとき、感覚で選んだほうが理論的にも正しかった……ということも多くあり、感覚の背景には理由があることが分かりました。感覚を理論的に分析することができるようになり、仕事で相手を説得するときにも、重みを持たせられるようになりましたね。

松山恭子
松山恭子
1965年東京生まれ。高校生までニュージーランド、アメリカで過ごす。ゴールドマンサックス証券調査部証券アナリスト、慶応大学大学院経営管理研究科修士を取得後に、日本ロレアルの化粧品事業部コントローラー、ファーストリテイリング ユニクロマーケティング部、リヴァンプにて事業再生案件担当、ジーユー GUマーケティング部、ZebraJapan最高執行責任者を経て、2019年7月に同社取締役へ就任