ロービジョンの子が文字を学べる書体がないことに衝撃
高田 中野先生はロービジョンの子どもたちの研究や支援に取り組んでいて、視覚支援学校とのつながりも深い方です。私は無知で、ロービジョンの子どもたちは点字を習っていると思い込んでいましたが、学校へ行ってみると、拡大教科書で勉強していました。
拡大教科書とは、教科書の文字や図を拡大して色なども見やすく複製したもの。その文字は、教科書体ではなくゴシック体やフェルトペンで書いた文字に変更されていました。なぜかというと、筆字に近い教科書体は線の強弱があって、拡大しても細いところが見えないから。ゴシック体は線の太さが一定なので分かりやすいんです。それでも見えにくいので、子どもたちは教科書に顔を近づけて読んだり書いたりしていました。
でも、ゴシック体では、先生は子どもたちに文字を教えにくいんです。
―― それはなぜでしょうか。
高田 例えば「さ」は、ゴシック体にすると2画目と3画目がつながっていたりします。「しんにょう」の形も違うし、新元号で話題になった「令」の字も、「点」に「マ」の形が、「横線」に「巾」に似た形になります(下の図参照)。ゴシック体は印刷書体なので、印刷しやすいよう省略されているんですね。でもそれでは、子どもたちが書写にあるような手書きの形状で文字を覚えられません。
現場の要望もあって、すでに開発していた「TBUD丸ゴシック」という書体を学習指導要領にある教科書体の形状に合わせた「TBUD学参丸ゴシック」も急ぎ作りました。ただ、やはり部分的なデザイン変更では限界があります。他の子たちは書写にある手の動きにそった教科書体で学んでいるのに、ロービジョンの子は見えないからといって学習に適しているとは言えない書体で文字を学ぶのかと思ったら、いたたまれない気持ちになりました。誰に依頼されたわけでもないけれど、これは一から作らなければという思いが強くなったんです。
―― とはいえ、会社に所属しながら、個人の思いでお金にならない仕事をするのは容易なことではないと思います。会社はすんなりGOサインを出してくれたのでしょうか。