コロナ禍で春から外出自粛の生活が続いた2020年。外食ができないかわりに、ネット通販で食材をお取り寄せして自宅での食事を楽しんだという人も多かったのではないでしょうか。そうした中で利用者数を伸ばし注目を集めたのが、スマートフォンのアプリ上で全国各地の農家や漁師と直接やり取りしながら産地直送の食材を購入できる「産直アプリ」のポケットマルシェです。運営会社の代表取締役CEOである高橋博之さんに、生産者と消費者の今後向かうべき関係性について話を聞きました。

高橋博之<br>ポケットマルシェ 代表取締役CEO
高橋博之
ポケットマルシェ 代表取締役CEO
1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大学卒業。岩手県議会議員を2期務めた後、岩手県知事選に出馬するも次点で落選。事業家に転身する。2013年、東日本大震災の被災地で出会った仲間とNPO法人東北開墾を設立し、食べ物付き情報誌『東北食べる通信』を創刊。16年、生産者と消費者を直接つなぐスマホアプリ「ポケットマルシェ」を開始。著書に『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書)、『共感資本社会を生きる』(ダイヤモンド社)など。

社会がようやく「ノーマル」になってきた

―― ポケットマルシェ(以下、ポケマル)は2020年11月現在で、登録生産者数が2月末に比べて1.9倍の3700人、登録ユーザー数が同じく4.6倍の24万人に増えたそうですね。この動きをどう見ていますか。

高橋博之さん(以下、敬称略) 今はニューノーマルだと言われていますが、僕はそもそも、新型コロナの前の社会はノーマルじゃない、課題だらけだと思っていたんです。それを解決したいとポケットマルシェを始めました。これだけ利用者が増えたということは、僕が望んでいた景色に近づいてきたということ。コロナによってつらい思いをしている方ももちろんいらっしゃるのですが、社会がようやくノーマルな状態になってきたと思っています。

 今までの日本は、あまりにも幸福から遠ざかっていると感じていました。極度に分業が進んだ消費社会の中で都会の人は日々せわしなく働き、疲れて家に帰ってきたら、料理をして家族でゆっくり食事をする時間もなかなかとれません。片や、地方で農業や漁業などの1次産業に従事する人たちも、ものを作っても高く売れないので仕事をやめて街へ出てしまい、過疎化が進んでいます。

 僕は、消費者と生産者、食べる人と作る人がもっとつながれば、いろんな困難や課題が解決できるのではないかと考えました。きっかけは、東日本大震災の被災地で漁師とボランティアが出会い、共に復興作業に携わる中で互いに感謝し合う関係になっていたのを目の当たりにしたことです。

 生産者の顔が見えて、その食材がどれだけ手数をかけて作られているかという「物語」が分かれば、もうちょっと適正な価格で買おうという人も増えてくるはず。丹精込めて作られた食材と向き合って、少し時間をかけて料理して、食卓を囲んで家族と会話する時間も増えるのではないか。

 でも、なかなかそうはならなかった。「あなたがやっていることはすてきな事業だけど、ゆっくり料理をする余裕がない。とにかく時間的に無理」と言われてきました。

 ところが、コロナでめまぐるしい日常がぴたりと止まりました。