コロナ禍で舞台公演が軒並み中止となったことで、図らずも一つの台本にじっくり向き合うことができたという作家・演出家・俳優の松尾スズキさん。Bunkamuraシアターコクーンの芸術監督に就任後初の新作となる『フリムンシスターズ』は、当初予定していた音楽劇ではなく、20年ぶりの新作ミュージカルとして世に送り出すことになりました。インタビュー後編では、世の中がいまだ先の見えない不安に覆われている中、「今、演劇ができること」について聞きました。

(上)松尾スズキ 戦う気持ちで新作ミュージカルに向き合った
(下)松尾スズキ 「目の前で起きていること」笑えるのが演劇 ←今回はココ

松尾スズキ/作家、演出家、俳優
松尾スズキ/作家、演出家、俳優
1962年12月15日生まれ、福岡県出身。88年に大人計画を旗揚げ。主宰として作・演出・出演を務めながら、脚本家の宮藤官九郎ら多くの人材を育てている。97年『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で岸田國士戯曲賞受賞。小説『クワイエットルームにようこそ』『老人賭博』『もう「はい」としか言えない』は芥川賞候補に。主演したテレビドラマ『ちかえもん』は文化庁芸術祭賞などを受賞した。2019年に上演した「命、ギガ長ス」で読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。20年、Bunkamuraシアターコクーンの芸術監督に就任。

「みんな、コロナを笑い飛ばしたいんだな」

―― コロナ禍の中にある私たちは常に感染を警戒し、行動も制約され、何かしら不安や窮屈さを感じながら生活する日々を送っています。そうした今、演劇だから発信できること、劇場空間の魅力は何だと思いますか。

松尾スズキさん(以下、敬称略) つい先日、公演が再開した歌舞伎座の「八月花形歌舞伎」を見に行きました。まあ、客席はガラガラですよ。前後左右を空けて、一人ずつおじいちゃん、おばあちゃんが座ったりして。僕は花道の近くに座っていたのですが、花道も両側の3、4席は全部つぶしていました。

 そういう状況でも、見に来ている人たちって熱いんですよ。掛け声も出しちゃいけないから、「高麗屋!」って言いたいのをぐっとこらえていたりするんですけど、松本幸四郎さんは「距離を取らなきゃいけない」みたいなコロナに関するアドリブをよく入れていて、それにお客さん、けっこうくらいついて笑うんです。

 ああ、みんなコロナみたいなことって笑い飛ばしたいんだな、とすごく感じました。目の前で起きていることに笑ったり、感動したり、美しいと思ったりしたい気持ちは、映画などを見るのとはまた全然違うんですよね。