松尾 『フリムンシスターズ』はもともと音楽劇のつもりだったのですが、歌詞や構成を考える時間がたっぷりあったので、ミュージカルとしての新作になりました。ミュージカルの場合、劇中歌が20曲は必要で、台本を書きつつそれだけの歌詞を書くのはものすごく大変なんです。今回、善かれあしかれ時間ができてしまったので、災い転じて福となせということで、戦う気持ちでミュージカルに書き換えていきました。

 コロナのことを入れて書くか、入れないで書くかは今、演劇やドラマを書いている人にはすごく悩ましいところではあると思いますね。全員マスクして舞台に立つわけにもいかないし、そこは「ない世界」と考えて今回はやっています。

新作に込めた「不自由に黙っているわけにはいかない」

―― 『フリムンシスターズ』は松尾さんにとって20年ぶりの新作ミュージカルということですが、どんな作品でしょうか。

松尾 僕は「不自由」という感覚が、日ごろから一つの怒りとして自分の中にあるものだと思っているんですね。今作に登場する、故郷の沖縄を出て西新宿で無気力に暮らすちひろ(演:長澤まさみ)、かつての大女優みつ子(秋山菜津子)、みつ子の親友でゲイのヒデヨシ(阿部サダヲ)も三者三様の不自由を抱えている。でもそういう3人が出会うことで、欠落していたピースがバチッとはまって、何とかうまく一歩前進できるような化学反応が起きる。そういうことがテーマとしてあるかなと思います。

―― フリムンは沖縄の言葉で「狂った人間」という意味だそうですね。

松尾 昨今のニュースを見ていると、世の中に新しい狂気みたいなものが生まれつつあるんじゃないかという怖さを感じます。でもある種の狂気に取りつかれない限り、不自由さや呪縛からは逃れられないのか?とも思う。僕は芝居の中であまり答えを出すタイプではないので、そこから先は皆さん考えてくださいという感じです。

 今回は僕の作品にしては珍しく、ハッピーエンドに近い終わり方をしています。今、時代の気分がモヤモヤして、フラストレーションがたまりきっている中、せめてこの舞台では見終わった後にスッキリした気持ちで劇場を出てほしいなと。自分自身にも、劇場にいるひとときだけでも解放されたい、不自由に対して黙っているわけにはいかない、みたいなところはあります。

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<公演情報>
ミュージカル『フリムンシスターズ』

作・演出:松尾スズキ
音楽:渡邊崇
出演:長澤まさみ、秋山菜津子、阿部サダヲ、他

2020年10月24日(土)~11月23日(月・祝)
Bunkamuraシアターコクーン(東京)
※他に大阪公演あり

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/窪徳健作 ヘア&メイク/遠山美和子(THYMON Inc.) スタイリング/安野ともこ(CORAZON)