なぜ「老後2000万円問題」があれほど騒がれたか

―― 世の中の変化は確実に起きていたのに、自分事として考えていない人がまだまだ多かったということでしょうか。

柴山 そうですね。もし意識が向いていたら、2000万円の報告書もあれほど大きな騒ぎにはならなかったはずですし、もっと多くの人が資産運用を始めていたと思います。

 報告書に先立つ2019年の4月には経団連の中西宏明会長が「終身雇用は維持できない」、翌5月にはトヨタ自動車の豊田章男社長も「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」といった旨を発言されましたが、逆に言うと、それまでは公の場で「終身雇用は維持できない」と言えない雰囲気もあったわけです。しかし、既に起きている変化には正面から向き合わなくてはいけない。中西会長や豊田社長の発言も、政府の老後2000万円問題の報告書にも、そうしたメッセージが込められていたと思います。

 とはいえ、当然そうした現実と向き合う人もいれば、そうでない人もいる。意識の変化というのは時間をかけて起こっていくものですし、個人差があって当然です。それが今回のコロナ禍によって、より多くの人が資産運用に意識を向けるようになったということだと思います。

「既に起きている社会構造の変化に多くの人が向き合っていたなら、老後2000万円問題の報告書はあれほど大騒ぎにならなかったはずです」
「既に起きている社会構造の変化に多くの人が向き合っていたなら、老後2000万円問題の報告書はあれほど大騒ぎにならなかったはずです」

―― 柴山さんが2015年にウェルスナビを起業した背景にも、社会構造が大きく変化する中で、多くの人に、資産運用による老後への備えの大切さを知ってほしいという思いがあったのでしょうか。