テレビドラマ『すいか』や『野ブタ。をプロデュース』(原作・白岩玄)など、寡作ながら見る人の心にいつまでも残る物語を生み出す夫婦脚本家・小説家の木皿泉さん。日常を舞台にした「木皿ドラマ」は家族や友人といった人間関係についての固定観念に縛られず、人と人との関わりが丁寧に描かれていることが大きな魅力の一つです。その背景には、妻の妻鹿(めが)年季子さんが子どもの頃から抱き続けた、人との距離感やコミュニケーションについての疑問がありました。

(1)二人で「上書き」し合うと脚本が面白くなった
(2)人との距離感の「当たり前」が分からず苦労 ←今回はココ
(3)介護経験が「外に向かう物語」を書かせた

仕事の本質と関係ないルールに納得できず

―― 木皿さんのドラマには、人と関わりながら生きていく日常のいとおしさにはっとさせられるせりふがたくさんあって、何度でも見返したくなります。仕事も年齢もさまざまな女性たちが集まる下宿や高校など、舞台設定は異なっても、「木皿ワールド」に共通するのは価値観の押しつけがないことなんですよね。特にARIA世代は、仕事を続ける中でいろんな「こうあるべき」に悩み、もがいてきた経験を持つ人が多いと思います。

木皿泉さん(以下、敬称略) その人が好きでやっていることの何が駄目なの? って思うんです。

 私はラジオドラマでシナリオライターとしてデビューする前に11年半OLをやっていたのですが、仕事中は制服だし、会社のビルに入ってから職場に着くまでの短い間だから別にジーパンでもいいじゃんと思って、あるときからジーパンに運動靴で通勤したんですね。そうしたら必ず、エレベーターの中で顔も知らない偉い人にすごく怒られました。

 近ごろは、バスの運転手さんが暑くて水を飲んでいただけで「許せない」ってクレームを付けてくる人がいるんですよね。機嫌よく、安全に仕事をすることが一番大事なのに、それ以外でとやかく言うことが昔も今も本当に多過ぎます。

 私がOLをしていた80年代、まだ女性社員に主体的な仕事を与えられることはありませんでしたが、私は決まったことをするのは割と得意なほうで、事務仕事をコツコツやったり、工夫したりするのは好きでした。でも人間関係については、入社1カ月くらいで「これはやばいところだな」と思いました。

―― どんなところがやばかったのでしょうか?

「私、自分が『書きたい!』って心底思える状態になるまで待ちたいから、いつも原稿を出すのがすっごく遅いんです。やっぱり自分が楽しいと思いながら書いたもののほうが、皆さんが喜んでくださるというのが経験としてあるんですよね。でもいざ書ける状態に入ったら速くて、『ここのセリフが出てこない』みたいなことは一切ありません」
「私、自分が『書きたい!』って心底思える状態になるまで待ちたいから、いつも原稿を出すのがすっごく遅いんです。やっぱり自分が楽しいと思いながら書いたもののほうが、皆さんが喜んでくださるというのが経験としてあるんですよね。でもいざ書ける状態に入ったら速くて、『ここのセリフが出てこない』みたいなことは一切ありません」