言葉にしないと、みんなが気持ちよく暮らせない

木皿 中学生のときに、先生が「話したいことがあるから1分だけ時間をくれ」って言ったことがあって、そのときに私はぱっと時計を見ちゃったんですね。純粋に「本当に1分で話すのかな」と思ったからなんですが、そうしたら先生が「今、時計を見たいじわるな生徒がいました」と。要するに、比喩が分からなくて、言葉を文字通りに受け取ることしかできない。いじめられても、それがいじめだと気付けないことも本当に苦労しました。

―― コミュニケーションの行き違いや人間関係に人一倍敏感だからこそ、人と人との関わりを丁寧に描くドラマが生まれたんですね。

木皿 どんな間柄であっても、きちんと言葉にして、それなりに気を使った関係を作っていかないと、みんなが気持ちよく暮らしていくのは難しいんじゃないかなと思うんです。ただ、私自身の思っている人との距離感の取り方みたいなことがそんなに特殊だとは、ものを書くようになるまで知りませんでした。

 今でこそ、コミュニケーションが一番大きな問題だということがみんな分かっているけれど、昔は、「そんなのは取るに足らないこと」「わざわざ言わなくても分かるでしょ」っていう世の中だった。もしかして、私が理想だと思っている人との関わり方が実は皆さんの理想でもあったのかもしれませんね。

―― 次回は、仕事のパートナーでもある夫の和泉務さんとの関係や、車椅子生活を送る和泉さんの介護のお話について聞いていきます。

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/花井智子

木皿泉(きざらいずみ)
夫婦で共同執筆している脚本家、小説家。夫の和泉務は1952年生まれ、妻の妻鹿年季子は57年生まれで、共に兵庫県出身。初めて手掛けた連続ドラマ『すいか』で向田邦子賞を受賞。以降も『野ブタ。をプロデュース』『Q10』『富士ファミリー』など、長く愛される作品を世に送り出している。小説では『昨夜のカレー、明日のパン』(河出書房新社)が本屋大賞第2位、『カゲロボ』(新潮社)が山本周五郎賞にノミネート。最新刊はエッセー『ぱくりぱくられし』(紀伊國屋書店)。