言葉にしないと、みんなが気持ちよく暮らせない
木皿 中学生のときに、先生が「話したいことがあるから1分だけ時間をくれ」って言ったことがあって、そのときに私はぱっと時計を見ちゃったんですね。純粋に「本当に1分で話すのかな」と思ったからなんですが、そうしたら先生が「今、時計を見たいじわるな生徒がいました」と。要するに、比喩が分からなくて、言葉を文字通りに受け取ることしかできない。いじめられても、それがいじめだと気付けないことも本当に苦労しました。
―― コミュニケーションの行き違いや人間関係に人一倍敏感だからこそ、人と人との関わりを丁寧に描くドラマが生まれたんですね。
木皿 どんな間柄であっても、きちんと言葉にして、それなりに気を使った関係を作っていかないと、みんなが気持ちよく暮らしていくのは難しいんじゃないかなと思うんです。ただ、私自身の思っている人との距離感の取り方みたいなことがそんなに特殊だとは、ものを書くようになるまで知りませんでした。
今でこそ、コミュニケーションが一番大きな問題だということがみんな分かっているけれど、昔は、「そんなのは取るに足らないこと」「わざわざ言わなくても分かるでしょ」っていう世の中だった。もしかして、私が理想だと思っている人との関わり方が実は皆さんの理想でもあったのかもしれませんね。
―― 次回は、仕事のパートナーでもある夫の和泉務さんとの関係や、車椅子生活を送る和泉さんの介護のお話について聞いていきます。
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⇒木皿泉 介護経験が「外に向かう物語」を書かせた
取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/花井智子