病気がなかったら、私たちは別れていたかもしれない

―― お二人が入籍したのは、和泉さんの病気がきっかけだったんですよね。

木皿 籍を入れるつもりは全くありませんでしたが、トムちゃんが病気をして半年間入院した後で家に連れて帰ってきたら、賃貸の廊下の幅では車椅子で移動するのが無理だったんですね。その頃はちょうど『野ブタ。をプロデュース』が当たったときだったから、家を買うためのローンが組めると分かったんですけど、ずっと収入を二人で分けていたので、私一人ではNG。トムちゃんは大病をしているのでローンが組めなくて、入籍して私が保証人になることが条件でした。

 もし病気がなかったら私たちは別れていたかもしれないし、書くものも違っていたかもしれない。そういう話はよく二人でします。今の作品を肯定するんだったら、トムちゃんの病気があってよかったということになるね、と。「今の生活と、病気にならないで私と別れるのとどっちがいい?」って聞いたら、トムちゃんは「そりゃあ車椅子生活のほうがいい」。で、「そうやろ?」と私。仲良しっぽいでしょう(笑)。

―― 30年一緒にいてそういう会話ができる関係、とってもすてきです! 次回は「木皿ワールド」と呼ばれる作品世界についてお話を聞いていきます。

「もしトムちゃんの病気がなかったら私たち夫婦は別れていたかもしれないし、書くものも違ったかもしれませんね」
「もしトムちゃんの病気がなかったら私たち夫婦は別れていたかもしれないし、書くものも違ったかもしれませんね」

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木皿泉 人との距離感の「当たり前」が分からず苦労

取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/花井智子

木皿泉(きざらいずみ)
夫婦で共同執筆している脚本家、小説家。夫の和泉務は1952年生まれ、妻の妻鹿年季子は57年生まれで、共に兵庫県出身。初めて手掛けた連続ドラマ『すいか』で向田邦子賞を受賞。以降も『野ブタ。をプロデュース』『Q10』『富士ファミリー』など、長く愛される作品を世に送り出している。小説では『昨夜のカレー、明日のパン』(河出書房新社)が本屋大賞第2位、『カゲロボ』(新潮社)が山本周五郎賞にノミネート。最新刊はエッセー『ぱくりぱくられし』(紀伊國屋書店)。