「自分が書きたかったこと」に気づかされる

木皿 トムちゃんは、本のさわりを読むだけで「これはここに属する本だな」というのが頭の中で分類されていくのですが、その知識体系を自分で使う気はあんまりないんですよ。昆虫採集とか「ポケモン」みたいな感じで、集めるだけで満足なんです。

―― 作品の構想は夫婦で練り、博覧強記の和泉さんの知識を取り込みながら、執筆を担当するのは妻鹿さん。世の中にはいろんな共同制作の形があると思いますが、お二人のようなスタイルは唯一無二じゃないでしょうか。和泉さんが提案する本に対して、「なんか違うなあ」と思ったりすることはないですか。

木皿 面白さのツボが一致しているので、トムちゃんが本を出してきた瞬間に「それ面白い!」「それはいける!」ってすぐ分かります。で、そう言うとトムちゃんは震えるほど喜んで、もっと必死に探してきてくれます。私自身、考えがまだぼんやりしているときに、トムちゃんが示してくれた本によって「私はこういうことを書きたかったんだ」と気づかされることもあります。

―― 妻鹿さんからのフィードバックが、和泉さんのモチベーションを上げるんですね。今回出版されたエッセー『ぱくりぱくられし』の前半は、妻鹿さんと和泉さんの対話形式ですね。これまで発表された作品の一節を入り口に、「ネタ消費」や「佐村河内守氏」といった世間をにぎわした話題から「野坂昭如の文体」の話まで、話題はまさに縦横無尽。お二人の創作の過程をのぞくような楽しさがあります。

木皿 自作の引用をきっかけに、「~といえば」みたいな感じでいろいろ話していますね。普段我々が話していることをまとめた感じです。引用するセリフは……大抵覚えていないんですよね。特に私は過去の作品を振り返ることが全くなくて。「こんなのがあったはずだけど」って言うと、編集者さんがちゃんと調べてくれました。後は、ツイッターの木皿泉bot(木皿作品のセリフを自動ツイートするアカウント)が便利なんですよ! 本にしてもらいたいくらいです(笑)。