木皿 たぶん作家ってみんな自己顕示欲が強いので、たとえ夫婦でも仕事のことだとけんかになるって聞きますよね。でもうちは仕事でぶつかったことはないです。二人とも「何が面白いか」っていうところが一致しているんです。

 初めのうちは多少のずれもありましたが、一緒に仕事をしていくなかで、相手の書きたいことを吸収したり、面白いところを発見していったりした感じですね。

 トムちゃんは2004年に脳出血で手術をして半身まひが残り、車椅子生活になりました。それからは主にトムちゃんがインプット、私がアウトプットを担当するスタイルで書いています。

―― 具体的にどんな形で脚本制作が進むのでしょうか?

木皿 ドラマの世界(舞台設定)は大体私が作るんだけど、テーマとか、「こういう本のイメージを使ったらどうか」みたいなことは、トムちゃんがいいアイデアを出してくれます。私が執筆に当たって「こういうことが知りたい」「これについて迷っている」といった相談をすると、すぐにヒントとなる本を数冊、本棚から見つけてきてくれます。

脳内に現代思想の知識体系を構築している夫

木皿 トムちゃんは本の全部に目を通すことはなくて、要所要所しか読まないんですよ。彼が高校生の頃って現代思想みたいなものが仲間内ではやっていて、興味がある分野の本を競い合うように読んでいったそうなんです。まだ誰も手を付けていないものを一番にやろうという、一種の遊びみたいなもの。だから最後に参加してきた人は、残っていたインド哲学をやるしかなかった、みたいな(笑)。

 そういうことを若いときからずっとやってきているから、トムちゃんの頭の中には現代思想の体系みたいなものがちゃんとできあがっているんです。