世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。ライターの中妻美奈子さんが今回から2回にわたって、スウェーデンで自分の信念を仕事にした女性たちについて伝えてくれます。

 性別や人種がキャリアの障害になったり、男女間で所得の差があったりすることが、マスコミだけでなく政界でも重要な話題になるスウェーデンは「専業主婦」という職業がない国です。男女を問わず仕事は自分のアイデンティティーを支える大切なもので、初対面の人との会話の切り口は「あなたは何(の仕事)をなさっているんですか?」が定番です。

 したがって、女性でも仕事や役職に対する志は高く、男性に劣りません。ところが、近年、人一倍働いてがむしゃらにキャリアを積むことを目的にする女性が減ってきているように思われます。

 機会は平等に与えられているのになぜなのか。そこで、自分が信じること、仕事として携わっていたいことを選び、安定した役職や仕事を辞めて独立、成功を収めた女性にお話を伺ってみました。

レノックスPR代表 エーリン・アールデンさん
レノックスPR代表 エーリン・アールデンさん

雇われ社長を辞めて経営権を取得した理由は?

 スウェーデンの首都ストックホルムは、北欧のベニスとも呼ばれる水に囲まれた美しい街で、合計14の島々から成り立っています。その中心にあるのが旧市街と呼ばれるガムラスタン島です。1200年代から栄えた歴史ある島で、馬車も通れない狭い石畳の通路をはさみ、由緒ある古い建物の街並みが印象的な地域です。そのガムラスタンの海に面した建物にあるエーリン・アールデンさんの会社、レノックスPRを訪れました。

 「眺めがいいでしょう? PR会社というのは社員が財産なんです。このオフィスは社員に誇りをもって働けるいい環境を与えてあげたいと思って奮発しました。でも基本的に他にはあまりお金をかけてないんです。おかげで新型コロナの影響で大変な時期だけれど、一時解雇や人員削減をしなくてもなんとかやっていけています」

 エーリンさんは2016年11月、雇われ社長を務めていたPR会社を辞職、現在の会社に投資する形で経営権を取得し、パートナーとして現役で仕事をするワーキングオーナーとなりました。前職の安定した収入、社長という役職を捨て、自己出資までして獲得した今の仕事ですが、その勇気ある決断の背後にはずっと不合理だと思っていたPR業界の会社経営を変えたいという気持ちがあったからだそうです。