世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はイタリアから名高いワイナリーを継いだ女性当主の奮闘を伝えてくれました。

イタリアワイン界で多くの女性後継者が誕生

 「ワインをたくさん飲むと女の子が生まれやすくなる?」

 そんな言葉がささやかれてもおかしくないほど、イタリアワイン界では今、後継者が女性、というケースがとても多い。イタリア最高峰の赤ワイン生産地として知られる、北イタリア・ピエモンテ州も同じ状況だ。1980年代から世界に名をとどろかせてきたバローロ、バルバレスコといったピエモンテ州赤ワインのトップメーカーたちが年齢を重ね、次々と引退。その後を任せるのは娘、というケースがとても目立っているのだ。イタリアワインの帝王と呼ばれたアンジェロ・ガヤも、伝統製法を守り抜いたバルトロ・マスカレッロも、イタリアワインファンなら誰もがその名を知る有名生産者たちの、現当主はみんな女性なのだ。

 2016年にエリオ・アルターレの後を引き継いだシルビア・アルターレさんも、またその一人だ。

 エリオ・アルターレとは、ヘビーで、飲みやすいとは言い難いワインだったバローロを、モダンで飲みやすいワインに再生し、世に送り出したつくり手だ。バローロをはじめとするピエモンテワインの一時代を築き、世界的な評価を受けた。今でももちろん、「エリオ・アルターレのバローロ」と言えば、背筋がピンと伸びるほど緊張するイタリア赤ワインの最高峰の1つ。そんな偉大な父の後を引き継いだ長女のシルビア・アルターレさんは、意外なほどにあっけらかんとしている。

 「父、エリオの事業を引き継ぐことは、私にとってはとても自然なことだったの。よく、偉大な父の後を継ぐには大きな決断が必要だったのでは? なんて聞かれるけど、特に悩んだとか決断したとかはなくて、気がついたらこうなっていたというか。誰かに強制されたとか、長女としての責任とか、そういうものもなくて」とシルビアさんは笑う。

 ワイン界でどんな名声を得ようとも、「俺は農民だ」という姿勢を崩さなかった父と、子どもの頃から家族全員で畑作業をしたり、醸造の手伝いをしたりするのが楽しかったから、シルビアさんは慣れ親しんだワインづくりを続けることに抵抗はなかった。大学で経済を学んだ後、オーストラリア、カリフォルニア、そしてフランスのブルゴーニュを旅し、ワインづくりの現場を見て回った。生まれ育ったピエモンテのラ・モッラ村に戻った後は自然と家業に加わり、13年後の16年、「エリオ・アルターレ」のオーナーとして新しい出発点に立ったというわけだ。

父・エリオさん(左)とシルビアさん。明るくて冗談好き、そしてワインにかける熱い情熱がそっくりな2人
父・エリオさん(左)とシルビアさん。明るくて冗談好き、そしてワインにかける熱い情熱がそっくりな2人