世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はスコットランドから、難病のライム病を克服した女性の長い闘いと、その後の奮闘について伝えてもらいます。

“体中が痛い。どこもかしこもズキズキする。体内に何かが棲(す)みついていて、組織も細胞も骨も内蔵も、1ミリたりとも逃すことなく食い尽くしてるみたい。まるでシロアリに食い荒らされて、小さな穴だらけになった木の幹のように、内側からボロボロになって崩れ落ちるまで攻撃してくる。少しでも動いたら、体が粉々になってしまうんじゃないかと怖い……。”

 これは、正体の分からない難病に苦しむジョイの悲痛の叫び。ジョイとは、2022年5月にスコットランド・ハイランド地方評議員に選出された、モーヴェン=メイ・マッカラムさんが17年に出版した小説『Finding Joy』の主人公の女性の名だ。この小説は、ライム病啓発活動に奔走するマッカラムさん自身の、10年を越える壮絶な闘病生活をベースにしたフィクション作品なのだ。

突然襲ってきた原因不明の慢性病

 スコットランド北部ハイランド地方のブラックアイル半島で生まれ育ったマッカラムさんは、マウンテンバイクに乗ったり、乗馬、山登りなどに明け暮れる、とても活発なアウトドア派少女だった。看護師の母親の影響もあり、将来は大学でメンタルヘルスや看護を学び、卒業後は軍隊の衛生要員になることを目指していた。

著書『Finding Joy』を掲げるマッカラムさん。写真右は病気になる前の様子。活発な少女だった
著書『Finding Joy』を掲げるマッカラムさん。写真右は病気になる前の様子。活発な少女だった

 ところが、14歳の夏休みの終わりに突然、高熱と関節や筋肉の激しい痛みに襲われ、数日間寝込んでしまった。熱が治まってからしばらくすると、今度は定期的に重度の疲労感に悩まされるようになった。やがて集中力と記憶力の急激な低下へと進展し、教科書の一行を読むのに30分以上かかったり、知り尽くしていたはずの校舎内で迷ったり、仲良しのクラスメートを認識できないことさえあったという。

 一日をなんとか終えて下校するときには心身ともに疲れ果てており、通学バスの中で眠り込んでしまうという日々が続いた。何度も医者の診察を受けたが、診断が確定しないまま月日が流れ、体調は悪化するばかり。そして16歳のとき、ついに体力が限界に達し、中等学校を中退して自宅での療養生活を余儀なくされた。

 「本当に孤独な日々でした。母は仕事があったし、姉は大学の近くに下宿していたし。友達も次第に離れていき、飼い犬だけがいつもそばにいてくれる心の慰めでした」

 ある日、ライム病の経験を持つ隣人から、マッカラムさんもライム病ではないかと言われた。病気の原因究明のために医療関連の資料を徹底的にリサーチしていたマッカラムさんの母親のジーンさんも、娘の症状がライム病の症状にとても似ていることから、その可能性が高いのではないかと思うようになった。