世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はライターの山本夏子さんが、アルゼンチンの離婚事情と、その後の人生設計、家族の形について迫ります。

 南米アルゼンチンと聞くと、サッカーやタンゴを連想する人が多いかもしれませんが、地球の反対側に位置するこの遠い国が「離婚大国」であることを知っている人は、きっとあまりいないでしょう。アルゼンチン人女性の多くが、離婚を経ても社会で活躍し続け、育児と両立させ、いくつになっても女性らしさや向上心を失わずに輝いていられるのはなぜなのでしょうか。

年に1万500組が結婚し、8200組が離婚する国

 アルゼンチンでは2015年8月に導入された通称「Divorcio Express(スピード離婚制度)」のおかげで、これまで長期間かかった煩雑な離婚手続きが短期間・低コストで終了するようになり、その後2年間で離婚率が41%も増加しました(*1)。同時に、結婚するカップルの数も近年減少傾向をたどっていることから、2018年のデータでは、首都ブエノスアイレスにおける年間の離婚総数は8217組で、それは同年の結婚総数1万511組の約8割に当たると発表されました。

 このデータでは、離婚する男女の平均年齢は女性が46歳、男性が48歳で、離婚夫婦の婚姻期間は10年~20年が3割を占めます。この年齢で10年以上夫婦関係を続けていると、子どもがいるケースも多いですが、こうした状況下でも多くのアルゼンチン人夫婦が離婚に踏み切ることができる理由は何なのでしょうか。

離婚を経ても仕事と育児を両立させ、いくつになっても向上心を失わずにいる女性が多い(写真は次ページ以降に登場するマリーナ・キロガさんと新しいパートナー)
離婚を経ても仕事と育児を両立させ、いくつになっても向上心を失わずにいる女性が多い(写真は次ページ以降に登場するマリーナ・キロガさんと新しいパートナー)

「離婚大国」の女性たちが別れを選択できる理由

 「子どもの父親(母親)というだけで、自分と生涯を共にしなければならないわけではない」という意見を、この国ではよく耳にします。「子どもの父親(母親)との家庭維持」にこだわる必要はない、という発想があることを如実に示しています。

 アルゼンチン人は往々にして夫婦関係と親子関係を切り離して考えます。たとえ夫婦が離婚に至ったとしても、親と子の関係は変わらず、元夫婦は別々に暮らしながらも、子どもとそれぞれの親の関係が維持されるよう最大限の配慮をします。

 離婚家庭の子どもの多くは、平日は母親と、週末は父親と過ごすなどして、それまでと変わらない愛情を両親や双方の親族から受けて育ちます。両親に新しいパートナーができると、そのパートナーの親族もまた、分け隔てなく子どもを家族として迎え入れるのが一般的です。

 離婚しても子どもとの絆は切れず、子どももこれまで通りみんなに愛されると分かっていることは、両親に離婚を決断させる上で大きな安心感を与えているのです。