「自分らしさ」を尊重する多民族国家

 アルゼンチン社会のこうしたリベラルな空気を理解するには、この国がさまざまな国から移民を受け入れてきた多民族国家であることを知る必要があります。圧倒的多数の欧州系移民の他にも、中東系、日系人を含むアジア系、そして先住民系と、多種多様な民族、文化、習慣の融合から成り立っているのがアルゼンチンという国なのです。

 多民族国家では、容姿はもちろん、信条、価値観、生き方などにおいて、「みんな違っていて当たり前」という考え方が浸透しています。

 進学時期などもバラバラなため、例えば大学生の年齢層は幅広く、在学中に出産し、子育てが一段落してから学業に戻る女性なども多くいます。各自の選択に対して社会に偏見がないことから、それぞれが事情に見合ったライフスタイルを、その都度自由にデザインし直すことができるのはとても魅力的です。

離婚が女性を輝かせている

 年齢に応じた「スタンダード」がないことから、「もう○×歳でこれだけやったからいい」というような、年齢を理由にした“自己制限”もまた存在しません。「○△歳だからもうおばさん」などの発想もみじんもなく、何歳になっても恋愛現役、学問現役の女性がとても多くいることに驚かされます。

 離婚した女性が自分の興味や関心のあることに積極的でいられる背景には、週末や平日の夜に子どもが父親の家に行くことから、母親業から完全に解き放たれ、趣味や勉学、新しい恋愛に打ち込める自由な時間が取れるという環境があります。これが「離婚が女性を輝かせている」と筆者が常々感じるゆえんです。

 筆者の友人で、リハビリセンターの創始者でありセンター長であるマリーナ・キロガさん(48歳)の生き方は、まさにこの、何にもとらわれない「ボーダーレス人生」を象徴しています。

マリーナ・キロガさん
マリーナ・キロガさん

 28歳で言語聴覚療法士の学士を取得したマリーナさんは、2人の子どもを出産した後に離婚。理学療法士の新パートナーとリハビリセンターを設立します。育児、理学療法士、センター長として働く傍ら、神経科学の修士号を取得。さらに心理学の博士課程に進み、今年ようやく論文を書き終えました。この間に、4年かけてボバース法(リハビリの治療法の一つ)の訓練士の資格も取得し、今では定期的にブラジルで講習会を開催するなど、国際的にも活躍しています。

 マリーナさんの尽きることのない好奇心と行動力を見ていると、子どもの父親との家庭維持にこだわらなかったことはもちろん、年齢、肩書、仕事量、そして母親という立場にもとらわれることなく、常にやりたいことに手をのばし、自分のペースで確実に、そして楽しんで目標地点に到達する、アルゼンチン女性特有のしなやかな強さを感じます。

マリーナさんは陶芸やサイクリングなど多くの趣味を楽しんでいる
マリーナさんは陶芸やサイクリングなど多くの趣味を楽しんでいる
マリーナさんは陶芸やサイクリングなど多くの趣味を楽しんでいる