ベビーシッター代は1時間315円

 では、離婚した女性たちがいかに社会で活躍しているかを見てみましょう。アルゼンチンの小学校の多くは1日4時間しか授業がありませんが、比較的安価でベビーシッターや家事代行を頼めることが大きな助けとなっています。

 ベビーシッターの費用は2019年7月時点で1時間121ペソ(約315円)で、1日4時間を週5日お願いしたとしても月9680ペソ(約2万5100円)程度です。一方、一般的なOLの平均給与は月2万5600ペソ(6万6560円)であることから、1日4時間程度のシッターを週に3~5回お願いすることは決して不可能なことではありません。

 また家族の絆が強いアルゼンチンでは、近所に兄弟、親戚、両親が住んでいることも多く、手を貸してもらえる状況にあったり、離婚を機に実家に引っ越して、両親に子どもを見てもらいながら仕事を続けていったりする人も多くいます。

離婚をネガティブにとらえない社会

 特筆したいのは、この国には離婚をネガティブなものとする社会通念が存在せず、子どもにも親にも社会の風当たりが一切ないことです。筆者の周りにも離婚している女性は多くいますが、その事実が彼女たちに社会的にマイナスな影響を与えているケースは1つもありません。

 このように、未婚、既婚、離婚、シングルマザーなど、女性のプライベートなステイタスが社会で全く問題視されないアルゼンチンでは、女性たちが己の信じる道を堂々と歩いていける空気があります。その好例を1つ挙げてみましょう。

 筆者の親友であり、心理カウンセラーと保育園経営者を兼任するナタリア・フェルナンデスさん(46歳)は、長男長女は同じ父親の子どもですが、3人目、4人目とそれぞれ父親の異なる子どもを産み、彼女主導で育てています。

ナタリア・フェルナンデスさん
ナタリア・フェルナンデスさん

 日本でなら噂の的となりそうですが、この国では家庭の事情が保育園経営者・園長としての彼女への信頼に傷を付けることはありません。ナタリアさんは普段からオープンに自分の話をしますが、彼女の事情を知ることで「肝っ玉母さん」としてのナタリアへ尊敬の念を抱く以外の、周囲の反応をこれまで見たことがありません。

 彼女は子どもたちがまだ幼いうちに保育園経営の権利を買い取り、4人の子を自分が園長を務める保育園で育てました。働きながら心理学士の学位を取得し、カウンセラーとしてもキャリアをスタートさせ、子どもたちが全員小学生以上になった今、重労働である本業の保育園経営から引退して経営権を売却し、これまで副業であったカウンセラー業一本でやっていく決意を固めました。

ナタリアさんは子どもたちがまだ幼いうちに保育園経営の権利を買い取り、4人の子を自分が園長を務める保育園で育てた
ナタリアさんは子どもたちがまだ幼いうちに保育園経営の権利を買い取り、4人の子を自分が園長を務める保育園で育てた

 アルゼンチンは現政権となって以降、光熱費が文字通り桁違いに跳ね上がり、施設維持費のかかる保育園経営が決してメリットの多い仕事ではなくなったことも、彼女が決断を下す大きな要因となりました。

 自分の置かれた状況を常に包括的に見て、時機を誤らず適切な判断を大胆に下せるナタリアさんは非常に賢いキャリアウーマンですが、そんな彼女が父親の違う4人の子どもを抱えても輝いていけるのは、アルゼンチン社会に偏見がないおかげと言えるでしょう。