世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はスコットランド在住のライターが、人生の転機をアートとクラフトで乗り切った2人の女性について伝えてくれます。

 深刻な健康上の問題で退職を余儀なくされた美術教師。新型コロナウイルス禍のロックダウンでキャリアを見つめ直した2児の母。思いがけない人生の窮地に立たされた2人の女性が、アートとクラフトでいかに新しい道を切り開いたかをご紹介します。

天職だった美術教師の仕事

 スコットランド北部、風光明媚(めいび)なネス湖のほとりにある小高い丘の上に自宅兼スタジオを構えるマージョリー・テイトさん(52歳)は、伝統的なケルト美術にコンテンポラリーなデザインを組み合わせた作品で高く評価されているグラフィックアーティスト。彼女の作品はハイランド地方のギフトショップや書店、オンラインショップで高い人気を集めています。今では米国、カナダなどの海外にもファンを抱えるマージョリーさんですが、実は心身ともに非常につらい時期を体験しています。

アトリエでインタビューに応じてくれたマージョリー・テイトさん
アトリエでインタビューに応じてくれたマージョリー・テイトさん

 「私の学生時代には、ハイランド地方の田舎ではアートは道楽だという考え方が主流だったけど、幸いにも私の両親は、私が自分の情熱を追い求め、アートの道に進むことを支援してくれたわ」と語るマージョリーさんは、スコットランド第3の都市アバディーンでグラフィックデザイン&クラフトの学士号を取得後、中等学校美術教師に。2000年に結婚し、2年後にハイランド地方の主要都市インヴァネスの中等学校の美術主任教師に就任。「生徒たちにアートの素晴らしさを教え、彼らの可能性を最大限に引き出すことが自分の天職」と感じていたといいます。

深刻な病気で早期退職、人生のどん底に

 悲劇が襲ったのは14年のこと。激しい腹痛に半年もの間悩まされたマージョリーさんは、腹腔(ふくくう)鏡検査を受けたものの診断が確定せず、ホルモン注射による治療で様子を見ることに。ところが、このホルモン注射の副作用が原因で 6カ月間の療養休暇を余儀なくされます。最終的に筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と診断され、担当医から仕事を辞めるように勧められるほど深刻な病でした。

 「目の前が真っ黒になって、完全にパニック状態でした。だって、美術教師の仕事は私の人生そのものだったから。うつにもなったし、本当にどん底にいたわ。この先、どう生きていったらいいのか分からなくて、自分を見失いそうだった