世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回は、ライターの羽生のり子さんが、パリの緑化計画への参加をきっかけに、都市農業のモデルを切り開いた女性の奮闘を伝えてくれます。

郵便局の屋上から始まったソフィーさんの都市農業

 フランス人の環境意識は近年驚くほど変化しています。干ばつや豪雨が頻繁に起きるようになり、気候変動の影響をより実感するようになったのが一因です。国の政策が出るのを待たず、温暖化防止のため独自の政策を打ち出す自治体も増えてきました。

 その一つがパリ市の、2016年から2020年までの間に100ヘクタールの緑化地帯をつくる「パリ栽培者」計画でした。市民から募集した緑化プロジェクトの中から優秀なものを選び、実現に向けて手続きの面などを市が支援するというものです。勤め先の郵便局の屋上で野菜栽培をするプロジェクトで応募し、入賞したのがソフィー・ジャンコウスキーさんの団体でした。

 ミュージシャンのマネジャーなどをしたのち、30歳で郵便局に就職したソフィーさんは、当時、局でプロジェクトマネジャーの仕事をしていました。パリ18区の郵便局には900平方メートルの屋上があります。そこに土を入れ、季節の野菜や果物を作るという計画を4人の局員仲間と始めました。そのための非営利団体「郵便配達人・タネ」を立ち上げ、ソフィーさんが会長に就任しました。2万ユーロ(約260万円)の資金はクラウドファンディングで集めました。

 目指すのは食料の自給自足。退職した元郵便局員も加わって、数人で無農薬・無化学肥料で栽培を始めました。筆者が2017年10月に訪問したときは、郊外まで見渡せるダイナミックな風景と、足元で育つかわいらしい野菜が対照的でした。都会育ちのソフィーさんは、「種を入れた粘土団子をまく福岡正信の農法を知ったことが、パーマカルチャー(※)に目覚めるきっかけでした」と説明しました。

 福岡正信は、フランスの有機農家や自然農法家の間で大変尊敬されている農学者です。今では、新鮮な無農薬・無化学肥料の野菜を求めて屋上栽培をするプロジェクトがフランス中に広がっています。ソフィーさんはそのパイオニア的存在でした。

左/郵便局で屋上栽培をしていた頃。(写真提供/sophie jankowski )右/ソフィー・ジャンコウスキーさん
左/郵便局で屋上栽培をしていた頃。(写真提供/sophie jankowski )右/ソフィー・ジャンコウスキーさん
左/郵便局で屋上栽培をしていた頃。(写真提供/sophie jankowski )右/ソフィー・ジャンコウスキーさん
※パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)を組み合わせた造語。 永続可能な循環型の農業を基に、人と自然が共に豊かになるような関係性を築いていくためのデザイン手法。