世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はライターの小林由季さんが、コロナ禍を乗り越えて輝くスペインの女性シェフたちの経営術をリポートします。

 スペインのマジョルカ島といえば、スペイン王室や世界のセレブリティが避暑に訪れる一大リゾート地。この島のレストランの多くは国際的な観光客のニーズに質と量の両面で応えるべく、内容も営業時間も基本インバウンド向け。夏場に稼いで観光客の少ない冬場は休むというようなスタイルが通常です。

「島にない食材で作ってもしょうがない」と地元に根差した店を開店

 非常事態宣言が解除された2020年7月初旬から観光客が戻りつつありますが、コロナ禍は今年のマジョルカ島の夏の風景を大きく変えてしまいました。そんな中、新型コロナ以前から島のスタンダードを全く気にせずやってきたのは、シェフのマルガ・コルさん(44歳)。マジョルカ島内陸部でレストラン「Miceli」「La Barra de Miceli」の2軒を経営しています。

マジョルカ島の人気レストランのシェフ、マルガ・コルマさん。流行に流されず、地元の食材を生かした料理が好評
マジョルカ島の人気レストランのシェフ、マルガ・コルマさん。流行に流されず、地元の食材を生かした料理が好評

 子供の頃から夢は料理人になること。地元の料理学校を修了し数件のレストランで修業しましたが、その後14年間ほど障害者の職業訓練支援をするアマディップ(Amadip)財団に勤めました。障害のある生徒たちに料理を教え、彼らの自立を支援する仕事から学んだものは大きかったといいます。

 財団で管理職の立場にもなり、家族に助けられながら子育てが一段落した時、やはり料理に専念したいと一念発起して自分の店を開いたのが2012年。

 スペインの料理界は90年代のフェラン・アドリアらの登場以来、前衛料理へと大きく傾いていましたが、マルガさんは「島にない素材で作ってもしょうがないし、高度な技術を学び始めるのはすでに遅い」と思い、土地に根付くということだけを軸に起業しました。