世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はオーストリア在住のライターが、ウィーンで親友と共に好きを仕事にした2人の女性について伝えてくれます。

漠然とした夢が思いがけず現実に

 オーストリア・ザルツブルク出身のジェニファー・ユーコ・モーリーさん(39歳)は、ウィーンの大学でファッションデザインを学びました。そして学生だった19歳の時に、現在カフェを共同経営しているネドラ・シャシュアさん(39歳)と出会います。卒業後もずっと友人だったものの、それぞれ別の仕事をしていました。カフェを共同経営することになるとは思っていなかった2人が、デザインカフェ「APA-TO」にたどり着くまでのストーリーをたどってみます。

 ジェニファーさんは卒業後、英ロンドンのヴィヴィアン・ウエストウッドへ、インターンシップ(就業体験)に赴きます。楽しくいい経験をしたものの、大都市ロンドンのスピーディーなライフスタイルよりウィーンのゆったりした暮らしが合うと思った彼女はオーストリアに戻り、オーガニック素材を使うサステナブルファッションブランドでデザイナーとして仕事を始めます。

 その後、妊娠と同時期に自分のファッションブランドを立ち上げたり、家具や生活用品を扱うオーガニックブランドと仕事をしたり、さまざまなプロジェクトを同時進行でこなしていました。

 将来は、好きな商品を置いて、友人が集い誰でも来られるカフェスペースのようなお店を経営したいという漠然とした夢が以前からあったというジェニファーさん。ただ、目の前の仕事も忙しく、子育ての真っ最中でもあり、カフェ経営はリタイアに近い年齢になってから……と思っていました。

 ちょうどいい物件が空いていると知人であるオーナーから聞いたときも、ジェニファーさんは自分で借りてカフェを始めようとは思いませんでした。

 その物件は立地もスペースも素晴らしく、もともと他の店舗がテナントとして入っていました。あるアーティストがそこを借りて改装し、ギャラリーとしてオープンする予定でしたが、新型コロナ禍で断念したので、空き物件になってしまったのです。

 オーナーから話を聞いたジェニファーさんは、友達や知り合いに「すてきな場所があるよ」と紹介し、ファッションやインテリアデザインで自分のビジネスを立ち上げていたネドラさんにも「ショールームとしてどう?」と聞きましたが、ネドラさんも「1人で経営するのにはリスクが大きすぎる」と断っていました。ところが、2人でお互いの夢を話し合ううち、1カ月半後には「自分たちの好きな商品を扱うカフェスペースを共同経営する」という同じ思いに行きついていました。

ネドラ・シャシュアさん(左)とジェニファー・ユーコ・モーリーさん(右)と(写真/VILMA PFLAUM)
ネドラ・シャシュアさん(左)とジェニファー・ユーコ・モーリーさん(右)と(写真/VILMA PFLAUM)