世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。インドネシアでは、21世紀の現代でも伝統音楽のガムランが人々に愛されています。インドネシア在住のライターが、家庭や会社員として仕事を持ちながら伝統音楽のプロの歌手として活躍する2人のインドネシア女性について伝えてくれます。

 世界4位の約2.7億人の人口を誇るインドネシアには、300以上の民族が住んでいます。その中でも多数を占めるのが、ジャワ島に住むジャワ人です。ジャワには豊かな伝統文化があり、その1つにジャワガムランがあります。8世紀には既に存在していたとされ、その後、ジャワ王朝の庇護(ひご)を受けて発展。現在も一般の人々の間で広く愛好されています。

 ジャワガムランは、青銅製の打楽器や両面太鼓など約15種類の楽器で合奏する音楽で、そこに男女のボーカルが入ります。ボーカルは演奏の良しあしを左右するので、歌声のいい歌手は引っ張りだこです。ジャワガムランの演奏は、披露宴や舞踊イベント、そして、土曜の夜から日曜の朝まで徹夜で上演されるワヤンクリット(影絵芝居)で行われるので、歌手もしばしば徹夜で歌います。中には専業でなく別の仕事と兼業で歌手を続けている人も。時間的にも体力的にも負担が多い音楽活動と、仕事や家庭をどう両立しているのか、プロの歌手として活躍する2人のジャワ人女性にお話を聞きました。

歌うのがとにかく好きだった子ども時代

 明るい性格で、いつも笑顔のワシラーさんは57歳。伝統芸能の都、ジョクジャカルタ特別州のグヌンキドゥル県出身です。2人の息子は成人して独立し、現在は、東ジャカルタで夫と暮らしています。ワシラーさんは、会社員として仕事をする傍ら、プロの伝統音楽歌手として歌っています。夫もプロのガムラン演奏家なので、ワシラーさんは音楽活動でも夫と行動を共にしています。

 ワシラーさんの出身地グヌンキドゥルは、州都があるジョクジャカルタ市から車で約1時間半の山あいにあります。これといった産業がなく、やせた土地で芋を栽培して生計を立てている人が多い地域ですが、民間の伝統音楽活動は盛んで、ワシラーさんの身の回りにも幼少の頃からジャワガムランがありました。近所のアマチュアグループの練習で歌うのが楽しかったというワシラーさんは、7〜8歳の頃には歌えるようになっていました。

ジャカルタで上演されたワヤンクリットの舞台で。左がワシラーさん
ジャカルタで上演されたワヤンクリットの舞台で。左がワシラーさん