世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。マレーシア在住の森 純さんが、専門職で活躍する女性たちがコロナ禍で出合った、人生の大切なものについて伝えてくれます。

全土ロックダウンが連れてきた「愛」

 インド系マレーシア人のマハ・アムピカパシーさんは、弁護士。大学院で修士号を取った後、大手企業の法務部で働いています。仕事は専門性が高く、やりがいはあるけれどもストレスも多い。夜9時まで残業することもしばしばで、契約関係の業務での国外出張もずいぶんありました。

 2020年3月のある夜、仕事帰りに近所をウオーキングしていると、クーン、クーンという弱々しい声が聞こえてきました。携帯電話のライトを頼りに辺りを探すと、生まれたばかりの子犬が側溝に落ちていたのを見つけました

 「そのときは、とにかく助け出さなくては!と夢中で。だって、まだ目も開いていない子犬を、そのまま放っておけないでしょう?」

 子犬を抱いて家に帰り、体についていたアリやダニをシャワーで落とし、翌日獣医に連れて行って診察を受けました。子犬はボーダーコリーのオスで、幸いにも健康でした。元気を回復したら飼い主を見つけてあげようと、そのときは「とりあえず」保護するつもりで、子犬と一緒に家に戻りました。

 子犬の運命が変わったのは、数日後の3月16日。新型コロナウイルスの流行で、マレーシア全土で経済活動の停止と外出禁止が発表されました。「この子をうちで飼わない?」と夫が言い出し、マハさんは急いで犬用のケージやベッドを買ってきました。すっかりなついた子犬に情が移ってしまい、手放すことなどもう考えられなくなっていたのです。子犬はルーと名づけられました。

 翌々日の3月18日からは、食料品の買い出しや通院など必要最小限の外出しかできなくなり、マハさん夫妻も家で仕事をするようになりました。よちよち歩きのルーは、親代わりの夫妻を慕ってどこにでもついてきます。

 朝はジョギングに行く夫について一緒に出かけ、帰ってきたらえさを食べ、午後にはマハさんと共に散歩に出かけ、夜はマハさん夫妻と並んでベッドに入る毎日。外出は限られ、来客もないロックダウン生活も、ルーがいるおかげで一定のペースが維持できたといいます。

「家にいよう」と呼びかける広報広告(左)と、家族の一員になり、買ってもらったベッドで眠るルー(右/写真提供:マハさん)
「家にいよう」と呼びかける広報広告(左)と、家族の一員になり、買ってもらったベッドで眠るルー(右/写真提供:マハさん)
「家にいよう」と呼びかける広報広告(左)と、家族の一員になり、買ってもらったベッドで眠るルー(右/写真提供:マハさん)