世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はライターの兒玉ゆきこさんが、フランス人女性の学び直し、復学事情に迫ります。

 仏ル・モンド紙ウェブ版に掲載された30〜50代の復学に関する記事(2019年4月3日)によると、2016年に新たに大学卒業資格を得た働く世代の復学者数は9万9200人で、全体の12%に上りました。この数字は2013年から1万5000人増えています。また、9万9200人のうち36%は現職とは関係ない個人的な動機で復学しているということです。なぜ働く世代の復学者は増えているのでしょう?

日本以上に学歴社会のフランス

 大学全入時代といわれるようになって久しい日本で「高学歴」のボーダーラインが変わってきているように、フランスでも高学歴の基準は変化します。

 現在のフランスのスタンダードな学歴である国家資格バカロレア(Baccalauréat =通称BAC )は、1808年、かのナポレオンの命で導入されました。中等普通教育修了証明であり、かつ大学進学資格となっています。1900年には国民の1%にすぎなかったバカロレア取得者率は、のちの「教育の大衆化政策」が功を奏し、2016 年には60%に達しました。

 現在ではこのバカロレアは、社会人になるパスポートとして、持っていて当然の資格となっています。バカロレア修得後に2年、3年、4年学び、日本でいうところの短大・四大卒の資格を得る人が多いほか、バカロレア+5年学ぶ(大学4年を終了した後にもう1年マスターコースを受けるという「大学5年卒業」資格)という高学歴を得る人も珍しくなくなってきました。現在フランスで高学歴というと、しばしばこのBAC+5以上を指すようになってきました。

 フランスは日本以上に学歴社会。大学で何を学んだかが重視されます。働きながら仕事のスキルを身に付けることも多い日本とは違い、フランスではいくら名門大卒といっても、文学を専攻した新卒学生が銀行員として採用されることはありません。また、学歴の違いは給料に直接結びつくため、当然みなBAC+5を目指します。

四大卒のARIA世代は就職・転職しづらい?

 効率的にも見えるフランスの進学と就職のシステムですが、実際のところ問題も少なくありません。万人大卒時代ならぬ「万人BAC+5時代」に突入したフランスでは、高学歴の人の就職難が問題になっています。30代後半~40代以上の世代が現役学生だった時代にはステータスであった四大卒は、現在ではBAC+5を持つ下の世代に比べると見劣りがします。そこで近年、30代から40代、そして50歳になっても大学に復学する人が増え、学び直しの機運が高まっています。

 現役の学生時代にはまだ一般的でなかったBAC+5を取得し、給料アップを目指す人もいれば、専門職にさらに別の資格をプラスしてキャリアアップを目指す人、完全に別のことを学んで転職する人と、学ぶ理由は人それぞれ違います。

 そこで筆者の周りの年齢も家庭環境も出身も異なる3人の女性の例を取り上げて、フランスにおける働く女性の復学事情を紹介したいと思います。