世界各国に住むライターが、現地に暮らすARIA世代の女性にインタビューをし、その国・地域ならではのキャリア設計、家族の形、趣味やトレンドなどを紹介する連載。今回はライターのボッティング大田朋子さんが、イギリス人女性の「天候に左右されない趣味」に迫ります。

 「趣味大国」と言われるイギリスでは、趣味を楽しむ文化が根ざしているといえます。ある保険会社の調査によるとイギリス人の95%が趣味を持ち、1週間のうち最低1日はその趣味のために時間を使うと発表されています。(※1)

 イギリスで昔からある趣味と言えばガーデニングやジャム作り、バードウオッチング、テニスやクリケット、ゴルフといったスポーツ、乗馬などが挙げられますが、ここ数年は陶芸や絵画、編み物、お菓子作り、読書、西洋習字といった天候に関係なくできて、かつ自分のペースで楽しめる「リラックス趣味」が人気です。2019年のデータでは、競技スポーツのようなエネルギーを消耗する趣味に疲れている人が増加していて、イギリス人の3分の1がリラックスできることを趣味にしていると発表されました。(※2)

 イギリスでリラックス系の趣味に人気が集まる理由や背景は何なのでしょうか?

趣味の主流は「癒やし」と「リラックス」

 著者の友人であり、小学校の先生として働くエミリー・フレミンクスさん(39歳)は読書、編み物、陶芸、お菓子作り、水泳を趣味として楽しむ、趣味大国イギリスを代表するような人物です。

小学校の先生として働くエミリー・フレミンクスさん
小学校の先生として働くエミリー・フレミンクスさん

 小学校2年生の娘と夫との3人暮らしで、平日は仕事を終えると娘を小学校まで迎えに行き夕方帰宅するのが基本的なルーティーン。ですが週2回、子どもが放課後に習い事をする日は彼女にとっても「習い事の日」と決めていて、この数年はその時間に水泳に通っています。仕事後に職場近くにある室内の温水プールで小一時間、ゆったりとクロールや背泳ぎをしますが、水の中にいると心身共にリラックスするといいます。

 また週に1回、水曜日の夜は彼女が「Me-time(ミータイム)」と呼ぶ自分だけのために使う時間です。子どもが生まれて以降、自分だけで過ごす時間がないことに危機感を覚えたエミリーさんが、週1回の夜をミータイムとすることを夫婦で話し合って決めました。

 その日は、いつもより早く仕事から戻る夫に娘を預けるとエミリーさんは出掛けていきます。一人でカフェに行き本を読んだり友人とごはんを食べに行ったりすることもありますが、去年からは陶芸教室に通い始めました。「陶芸をするのは生まれて初めてだったけど土を触っていると無心になる。土の質感が手に伝わるときの感覚に癒されるんです」とエミリーさん。

エミリーさん陶芸作品。「小さな人間たち、男たちを表しています。子どもの頃から粘土を手にするたびにこのような作風の作品を作っていました。 昔は悲鳴を上げる、不安がっている人と解釈していましたが、 今は彼らは歌っているのではないかと思うようになりました」とエミリーさん
エミリーさん陶芸作品。「小さな人間たち、男たちを表しています。子どもの頃から粘土を手にするたびにこのような作風の作品を作っていました。 昔は悲鳴を上げる、不安がっている人と解釈していましたが、 今は彼らは歌っているのではないかと思うようになりました」とエミリーさん

 さらに毎晩の楽しみは編み物です。「そろえる道具が毛糸と編み針だけだったから」という理由で始めた編み物ですが、今や編み物をしているときは「セラピューティック(心が癒やされる)」と言います。マフラーから始めてブランケットや帽子を作っていくうちに毎日の楽しみになりました。「編み物をしているときは何も考えないからとてもリラックスできるわ。メディテーション(瞑想)をしているような感覚に陥る。それに作ったものは使えるでしょ。作る癒やしと使える楽しみ、編み物は2回うれしいの」とエミリーさん。ある研究から編み物の反復動作は瞑想やヨガをするのと同じようなリラックス状態を誘発することが分かっています。

「家族や友達に、編み物をプレゼントするのも楽しい」とエミリーさん
「家族や友達に、編み物をプレゼントするのも楽しい」とエミリーさん