日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、「これまでとは違う一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気づきや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「自分への無関心」。

自分にものを食べさせることがめんどくさい

 多分いま、私の身体(からだ)の成分の9割方は、冷凍宅配弁当でできている。大げさな話ではなく、本当にそうなのだ。最近の冷凍宅配弁当はすごい。おいしい。栄養バランスが考えられている。メニューが豊富。おかげで1日に最低でも2回は食事をするようになった。大進歩である。それまではとにかく食べなかった。ダイエットではない。食べることを忘れてしまうのだ。というか自分にものを食べさせることなんかめんどくさくて、すぐ後回しにしてしまう。

 たしか漫画家のヤマザキマリさんも、集中すると15時間ぐらい飲まず食わずトイレにも行かないと言っていた。私もまさにそんな感じで、パソコンに向かったまま気づけば半日以上たっていることがザラだ。ファスティングダイエットが体にいいという記事を読んだら「え、16時間の空腹? これ私の日常じゃん! なら内臓にもいいってことね」と変に自信をつけてしまった。そんなわけないのだが。

 ある日の取材現場でのこと。たまたま女性が多かった。編集者は育児中の共働き。ライターは独身の多忙な生活。私は大黒柱の単身赴任状態。冒頭のような現状報告をしたところ、編集者が「私もリモートワーク中はずっとその宅配弁当です! 自分のためにご飯なんて作りません!」と告白。だよねだよね、食べるって時間取るし片付けもめんどくさいからチンして紙箱を捨てればいいだけの弁当最高だよねと盛り上がっていたら、ライターも「食べるの忘れますよね、一人でいると」と激しく首肯。

 そばにいたスタッフが「ダイエットですか?」と聞くも、「違う違う違う、そんなこと考えるのすらめんどくさい、ただもう、楽だから!」とみんなで即答。宅配弁当なら栄養価を考えなくてもいいし、冷凍庫から取り出して温めて食べれば正味15分で仕事に戻れる。

これが私の冷凍庫の現状です。食べ物は宅配弁当だけ。あとは水筒用の氷と、片頭痛の時に使う冷え冷え枕とヘッドバンド
これが私の冷凍庫の現状です。食べ物は宅配弁当だけ。あとは水筒用の氷と、片頭痛の時に使う冷え冷え枕とヘッドバンド

「これって、軽いセルフネグレクトでは?」

 しかし盛り上がりながら、ふと編集者と「これって、軽いセルフネグレクトじゃないですかね」という話になった。自分に対して邪険すぎやしないか? と。家族の食事では子どもの健康管理の責任があるが、自分一人のために手間暇かける気はゼロ。正直、それらしいものが口に入ればなんでもいい。その自分への無関心ぶりはどうだ。

 「いや、だって忙しすぎるから……やってもやっても仕事が終わらないし、働かないと家族を養えないし……」とにわかに互いをいたわるモードになった。自分に優しい丁寧な暮らしなんて、異次元レベルに遠い世界だ。

 それで思い出したのは、最近ある男性からもらったメールだ。この夏に私が出した対談集『おっさん社会が生きづらい』を読んだ40代の知人男性が、長い長いメールをくれた。そこには男として働きながら家族と生きるしんどさが縷々(るる)つづられていた。