高度1万メートルを隔ててすれ違っていた私たち

 地球サイズの働く子育て仲間と言えば、最近できた友人が、今はたぶんフィリピンあたりの海上にいる。巨大なタンカーの一等航海士なのだ。南半球のはるかかなたまで航海して、プラントで天然ガスを積み込み、海図や天気図を見ながら難しい計算をしたりタンクの管理をしたり密航者チェックをしたり海賊を警戒したりしながら戻ってくる。一度海に出ると数カ月は戻れない。

 彼女は幼い子どもの母親でもある。乗組員には毎日決まったデータ通信量が割り当てられており、家族とのやりとりはできるそうだが、それでも何しろ海の上、しかも数カ月の任務だ。かわいい盛りの我が子とハグしたりチューしたりはできない。私も普段は家族に会えないけれど、彼女を思えば、息子らに数週間会えない程度で寂しがっている場合ではない。

 貴重なデータを使って、彼女は時々船からの素晴らしい眺めを送ってくれる。この前は「昨日は熱帯低気圧のそばを通ったので、ずっと激しいうねりに揺られていました」とメッセージをくれた。前日に、私は日本からオーストラリアに戻るフライトで、激しい気流に悩まされた。つまりちょうどその1万メートル下の海では、彼女が同じ低気圧のうねりに揺られていたわけだ。日本から南下する私、日本へと北上する彼女。空と海ですれ違っていたことになる。こんなすてきなことってあるだろうか。

 アメリカの大都会にも、ヨーロッパの海辺の町にも、はるかかなたの海の上にも、同じ寂しさや苦労を分かち合う仲間がいるのだ。