自分を遊ばせる発想なんてゼロだった

 なぜこれまで一度も「じゃあシンガポールで一日遊んでからパースに帰ろっと!」とか考えなかったのかと言えば、もちろん一刻も早く子どもたちに会いたいからだ。パースから日本に向かう途中で寄り道する手もあろう。しかしそれならもう一日長く子どもたちと過ごすほうがいい。まさに脇目も振らず、仕事と家族の二つきりの世界を生きてきたのだ。自分を遊ばせる発想なんてゼロだった。すべてのお金と時間は子どもたちを最優先に考えて工面するもので、わが身は起きて半畳寝て一畳。東京砂漠の真ん中の殺風景なウナギの寝床で、IKEAのデスクで寝落ちするような生活を5年半、続けてきた。

 だけど……最近、目の前の風景に変化が表れた。真っ白な砂漠の地平に、ふと顔を上げるとかすかに緑の点が見えることに気がついたのだ。それは日を追うごとに確かに大きくなっている。よく見ると、はるかなオアシスの手前にはゴールテープが張ってあり、「祝・巣立ち完了」と書いてある。おおお、まじか。この長い子育ての旅路もついに終わりが見えてきたのか!

バルセロナの海、夜明け前と日の出。友人撮影。なんとフィルター無しでこれ!!
バルセロナの海、夜明け前と日の出。友人撮影。なんとフィルター無しでこれ!!