日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、「これまでとは違う新たな一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気付きや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「お金持ち」。

そのお金はどれだけ多くの人をハッピーにしたのか

 いま自分にとって「富」や「贅沢(ぜいたく)」の意味が大きく変わりつつあることを実感している人は多いと思う。命を守るための行動変容、それに伴う意識の変化。これまで価値を持っていたものが色あせ、目にも留めなかったものが意味を持ち始める。

 それに伴い「お金持ち」の意味も変わってくるだろう。桁違いの資産を持つビリオネアを成功者としてもてはやすのではなく、集めたお金を社会課題の解決のためにどれだけ効果的に使っているかに注目したい。

 富とは所有する資産の額ではなく、その人が作り出すお金の流れが社会に与えるポジティブな影響の大きさ、つまり「その人のお金がどれだけ多くの人をハッピーにしたか」なのである。

 世界の富豪ランキングを見るたびに思う。10回生まれ変わっても使いきれないほどの資産を、一体どうするの? 体は1つきり、1日も24時間。たった数十年しか生きられないのに。

 所有するワイナリーのギャラリーにずらりと並べた1台数千万円もする車のコレクションは、今日より明日の世の中を何にもマシにはしない。そのうちたった1台分のお金で、学校に通えない何百人もの子どもたちが学びの機会を得て、貧困の連鎖から抜け出し、自立することができる。世界は確実にマシになる。

 年に数度しか訪れない30部屋もある巨大な別荘は毎日むなしく空気を囲っているだけだけど、それにかけるお金を世界中で身を削って人助けをしている幾百のNPOに寄付したら、何万人もの人が支援につながれる。

 他人が稼いだ金に文句つけずに自分で稼げとマネー勝者は笑うだろうけど、私にそんな才覚はない。ただ祈るだけだ。どうか大金持ちが、まともなお金の使い方をしてくれますようにと。