日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、また、コロナ禍で長らく家族と会えなかった時期を経て「これまでとは違う一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気づきや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「49歳の大冒険」。

 全くの思いつきで、知らない街をひとりで歩いてみた。しかも海外で。49歳、4月の大冒険。それは何十年ぶりかの、素晴らしく自由な時間だった。17歳の頃の「世界が私を手招きしている」というあのキラキラした感覚が、久々によみがえったのだ。

 初めは、そんなつもりは全くなかった。

 家族が暮らすパースと東京の往復で、いつも使っている航空会社はどれも大幅減便中だ。だから今回は、普段は使わないシドニー乗り継ぎの便に乗ることになった。パースから国内便で大陸を横断してはるばるシドニーまで行き、バゲージクレームでキャリーケースを受け取った時点で、東京に戻る飛行機の搭乗時間まではまだ8時間以上あった。でも、コロナ禍でチェックインの際に予想外のことが起きる可能性もある。だから、シドニー空港のロビーで原稿でも書きながらおとなしく待機していようと思っていたのだ。

反対方向の電車に乗れば、たった18分で…!

 キャリーケースをピックアップして、さあ国際線ターミナルはどっちに行けばいいのかなと振り向いたら、目の前に「このエスカレーターで下へ」と書いてある。降りていくと、駅だった。どうやら国際線ターミナルまでは電車で一駅移動するらしい。切符を買おうと路線図を見たら、なんとシドニーは空港と市の中心部がめちゃくちゃ近い。しかも直通電車でつながっている。

 今いる国内線ターミナルから、隣駅の国際線ターミナルとは反対方向にたったの18分ほど乗れば、あのオペラハウスのあるシドニーハーバーブリッジのたもとまで行けてしまうではないか。

 時計を見る。時間はたっぷりある。運賃を見る。三度見するほど高い。18分で千数百円ってどうかしている。いや、しかしここは大都会シドニーだ。オーストラリアは時給も高いが物価も高い。不当な価格だが、ここで奮発すれば、オーストラリアでは毎年恒例のニューイヤー花火大会の映像でおなじみのシドニーハーバーブリッジが見られる。それに、思いつきで旅をするのはなんとも楽しそうではないか。

シドニーハーバーブリッジと自撮り。写真でお伝えできないのがもどかしいのですが、肉眼で見ると橋はもっと大きく高く、空いっぱいに架かっているような迫力です
シドニーハーバーブリッジと自撮り。写真でお伝えできないのがもどかしいのですが、肉眼で見ると橋はもっと大きく高く、空いっぱいに架かっているような迫力です