日本で働き、オーストラリアで家族と過ごす「往復生活」をしている小島慶子さん。子育ても終盤にさしかかり、「これまでとは違う新たな一歩」を踏み出しつつある小島さんが、新たな気付きや挑戦を語っていきます。今回のARIAな一歩は、「家族の形」。

東京とパース 画面越しに夫と2度「おめでとう!」

 久しぶりに「ゆく年くる年」を見た。前回見たのは2013年の大みそか。だけど全く覚えていない。ひと月後のオーストラリアへの引っ越しの準備で、大わらわだったからだ。船便を出した後で部屋には家具はほとんどなく、がらんとしていた。あれから丸7年。今回は東京の部屋で、一人の年越しとなった。

 夫と息子たちは、いつも通りオーストラリアで真夏のお正月。パンデミックで日豪の行き来が難しくなり、もうすぐ会えなくなって1年たつ。私の目の高さまでだった次男はその間にグングン背が伸びて、ついに私は人生初の「その集団で最も手足が小さく、背の低い人」になった。長男は車を運転し始め、大学進学を決めた。ハグできないのは寂しいが、ビデオ通話のおかげか、2020年は非常事態で時間の感覚がおかしくなったのか、そんなに長い間会えずにいる感じがしない。

 オーストラリアでは、クリスマスが日本のお正月に相当する。12月25日に家族と静かに過ごしたら、気分はもう新年。大みそかは友人とにぎやかに過ごす若者が多い。昨年同様、友達の家でカウントダウンパーティーをすると言って、息子たちはニコニコと出かけて行った。わざとプールに落ちたり、みんなで夜中の街をぶらぶらしたりするんだろう。楽しいに決まっている(2020年末時点で西オーストラリア州では感染拡大がかなり抑制されており、適切な距離をとっていれば友人との会合は禁止されていない)。

 私は30平米のウナギの寝床でA3サイズのテレビをつけ、パースのリビングでIKEAの長椅子に座って年末恒例のオージー懐メロ中継を見ている夫とビデオ通話をつなぎ、iPadで「ゆく年くる年」のテレビ画面に寄ったり引いたりして巧みに中継した。0時の鐘でおめでとう!と言い合って、そのまま「年の初めはさだまさし」を見る。パースの新年まで1時間。二人の間には、8000キロの距離と1年のズレ。さだまさしは遅刻している。端末の重みと笑い声で画面を撮る手が震えたけど、小さな画面にはくつろいだ夫の笑顔。ありがとうさだまさし。昔はこうして夫婦でNHKを見ながら、シャンパンや日本酒で乾杯したっけ。

 手首が限界に近づいた頃、パースのテレビ画面が3、2、1、0!で時報をまたぎ、新年恒例の大花火ショーが始まった。もう一度、あけましておめでとう。なんだか得した気分だ。