小林さん 以前はこうした「出世競争」は男性正社員だけのものでしたが、男女雇用機会均等法以降は、多くの女性たちがさまざまな面で不利な状況に見舞われながらも、男性と同じ「長いマラソンレース」を駆け抜け、今、40代、50代を迎えています。

 同期全員横並びで20年近く競わせる「長い育成期間」が終わった40代以降、昇進のはしご、成長のはしごが見えなくなると、嫌でも「終わり」を意識させられます。調査でも45.5歳で「キャリアの終わりを意識する」人の割合が逆転することが分かりました。

出典:パーソル総合研究所「働く1万人の成長・就業実態調査(2017)」
出典:パーソル総合研究所「働く1万人の成長・就業実態調査(2017)」

 終わりを意識し、「会社人生こんなはずじゃなかった」とモチベーションが低下するのが第一の谷の40代半ばというわけなのです。

50代に陥る最大の「キャリアの谷」とは?

小林さん 第2の谷の50代前半で起きるのは、ポストオフ(役職定年)です。

 ポストオフとは、ある決まったタイミング(年齢)で、後進に道を譲るため、その時点での役職を退任する仕組みです。制度として「55歳で役職定年」などと定めている企業もありますが、担当部長、専門職など部下のいない管理職になる、関連会社へ出向となるなど「第一線から外される」ことが暗黙の了解とされている非公式ポストオフというケースもあります。

 役員などに昇進する人以外のほとんどの管理職が対象となるこの仕組み。会社にフルコミットし、長年活躍を続けてきた部長、課長たちが「年齢」によって、一律的に「若手の支援に徹してほしい」というような扱いを受けるのは、大変ショックなことです。当然、モチベーションも会社への信頼感も著しく低下します。ポストオフ経験者への調査では「やる気が全く出なくなった」「会社に裏切られた気分」「廃人になりそうだった」「夜眠れなくなった」「あっけにとられた」など、4割弱の人が大きな喪失感を訴えていました。

石山さん 問題は、こうした大きな喪失感、失望感を与えるポストオフから、長い人では10年も15年も同じ職場で働き続けなければならない、ということです。

 60歳定年の時代であれば、55歳にポストオフとなっても、5年後には定年退職。ところが、今は定年延長、定年再雇用が増え、65歳、70歳まで働くケースもありえます。ポストオフという雇用慣行はそのままに、退職までの期間が10年、15年と延長しつつあるところが構造的な問題となっているのです。